過労死とはのページでもふれたように、長時間労働などによって特定の脳・心臓の病気を発症して亡くなった場合、労災として扱われます。
対象疾病
現在、次の病気が労災の対象疾病とされています。
- 脳内出血(脳出血)
- くも膜下出血
- 脳梗塞
- 高血圧性脳症
- 心筋梗塞
- 狭心症
- 心停止(心臓性突然死を含む。)
- 解離性大動脈瘤
なお、このページでは、一般的に使用されている「過労死」という言葉を使っていますが、対象疾病を発症した存命の方も同様です。
労災における過労死の考え方
脳・心臓の病気の発症が、どうして労災になるのか不思議に思われる方もいるかもしれません。
そこで、労災における過労死の考え方を紹介します。
脳・心臓の病気は、仕事とは関係なく発症することもありますが、その場合、通常であれば、長い年月の中で血管の異常などが徐々に悪化することで、発症にいたることになります。
しかし、仕事により大きな負荷が加わることによって、通常の悪化のペースを超えて急激に悪化し、本来であれば発症するはずでなかった時に脳・心臓の病気を発症してしまうことが医学的に認められています。
そのような場合、発症の大きな原因が仕事にあると認められれば、労災として扱うこととされているのです。
労災保険の給付を受けることができます
労災保険は、仕事による労働者の経済的な損失を補償するためのものです。過労死の場合も、労災として認定されれば、労働者やご遺族は様々な給付を受けることができます。
具体的には、ご遺族には、
- 亡くなった労働者の遺族の生活を補償する遺族補償(一時金または年金)
- 亡くなった労働者の葬儀費用を補償する葬祭料
- 亡くなった労働者の未成年の子の学費を支援する就学援護費
などが支給されます。
なお、労働者が過労のために脳・心臓疾患を発症して倒れ、そのまま遷延性意識障害、肢体麻痺、高次脳機能障害等の後遺障害が残ってしまったという場合には、
- 治療について療養補償、休職について休業補償
- 障害による減収を保障する障害補償(一時金または年金)
の支給を受けることができます。
労災には、客観的な基準があります
仕事中の怪我であれば、現場の状況や目撃した人の証言から、仕事が原因で怪我をしたことは明らかになります。
しかし、過労死の場合、脳・心臓の病気の発症ですから、仕事が原因で発症したのかどうか、誰の目から見ても明らかとは限りません。
そこで、厚労省によって、労災と認めるか認めないか、客観的な認定基準がつくられています。それが、「脳血管疾患及び虚血性心疾患等の認定基準について」(外部ページに移動します)です。
この認定基準によれば、大まかにいえば、労災(過労死)と認定されるためには、
- 過重な労働によって特定の脳疾患(くも膜下出血、脳出血、脳梗塞など)や心臓の疾患(心筋梗塞、心停止など)を発症すること
- 発症直前の1か月間に100時間以上、または発症直前の2か月間~6か月間に概ね1か月平均80時間の時間外労働があること
が必要となります。
しかし、時間外労働が80時間以上でなければ、絶対に労災認定がされないわけではありません。認定基準では、労働時間以外にも、作業環境などの様々な要素による負荷や異常な出来事も考慮することとされています。
このあたりの認定基準の考え方は少し複雑ですから、過労死の問題を取り扱っている弁護士に相談されることをお勧めします。
労働基準監督署への労災の申請手続
過労死が疑われる場合、労働基準監督署に労災申請をすることになります。
公務員の場合は少し特殊で、地方公務員の場合には地方公務員災害補償基金に対する公務災害申請、国家公務員の場合には各府省等の補償実施機関への公務災害申請をすることになります。
申請できるのは、亡くなられた労働者の特定の遺族で、遺族を代理して弁護士や社会保険労務士が申請することもできます。
会社の協力姿勢
労災の申請書類には、「申請書類の内容に誤りがありません」という内容の証明を会社にしてもらう欄があります。しかし、過労死の場合、この証明を会社が拒否することが少なくありません。
労災と認定されても、給付金は労災保険から出されるので、会社に直接的な損害はありませんが、いわゆる「ブラック企業」として社会に認識されることや、損害賠償請求を受ける可能性があることなどを恐れて証明を拒否する傾向にあるようです。
意見書の提出が重要です
労災の認定を受けるには、過重労働が証明される必要があります。
労働基準監督署は、資料に基づいて客観的な判断をしますから、家族による証言だけでは、認めてもらえるとは限りません。1日1日の労働時間を、あらゆる証拠を元に主張することが重要です。
しかし、ご家族の手元に、労働時間に関する資料が揃っていることは稀です。
もちろん、労基署の調査官も、会社から資料を集めてくれますが、タイムカードや出勤簿といった基礎的な証拠はともかく、パソコンのログ、セキュリティの記録、メールの送受信記録などの証拠については、必ずしも収集してくれるとは限りません。
また、会社も、労働基準監督署の調査に対し、自身に不都合な事実や資料を隠したり、他の従業員に労働基準監督署の事情聴取に対して嘘の回答をするよう働きかけたりすることもあります。
そこで、過労死のケースでは、労災申請の手続きに弁護士が積極的に関与し、証拠保全手続き等によって証拠を収集したうえで、労働基準監督署に適正な調査・検討を促すために弁護士の意見書を提出することが望ましいでしょう。
労災の申請には、時効があります
労災の申請には時効がありますので注意が必要です。
労災の遺族補償には死亡から5年、葬祭料には死亡から2年の時効があります。
なお、労働者が過労のために脳・心臓疾患を発症して倒れ、そのまま遷延性意識障害、肢体麻痺、高次脳機能障害等の後遺障害が残ってしまったという場合に支給される障害補償は、症状固定(それ以上症状が改善しない状態になること)から5年、休業補償や療養補償はそれぞれ休業日、治療日から2年の時効があります。
労災と認定されなかった、または認定の内容に納得できないとき
労災と認定されなかったり、認定の内容に不満があったりする場合には、不服を申し立てることができます。
決定の通知を受けた日から3か月以内に都道府県の労災保険審査官に審査請求をすることができ、さらに、審査請求が認められなかった場合には、2か月以内に東京の労働保険審査会に再審査請求をすることができます。それでも申請が認められない場合には、審査請求または再審査請求の決定から6か月以内に、労災不認定処分の取消しを求める行政訴訟を提起することができます。
なお、労災(過労死)と認定された場合の給付の金額は、死亡直前の平均賃金をもとに計算されていますが、サービス残業があったことを考慮せずに計算をするなどの事情から、適正な金額を大幅に下回る金額しか支給されていないことがあります。そのような場合にも、審査請求を行うことをお勧めします。(詳しくは給付基礎日額の問題を参照)