過労死が起きてしまったことに関して、会社の責任を追及したいときは、損害賠償請求をすることが考えられます。
会社は労働者の安全に配慮しなければなりません
会社と雇用契約を結ぶと、労働者は、会社の命令に従って仕事をする義務が発生します。
だからといって、会社が危険な働き方を労働者にさせれば、労働者の健康が脅かされてしまいます。
ですから、会社は、労働者に対する命令の権限を得ると同時に、仕事に関して、労働者の健康や安全に配慮しなければならない義務が発生します。
これを、「安全配慮義務」といいます。
過労死における会社の責任
過労死は、労働者ご本人やご家族の意思だけでは防ぎきれません。一般的に、労働者は会社から仕事を与えられれば、それを拒むことは難しいからです。
また、過労死が社会問題として取り上げられるようになり、厚労省も、「過労死等防止対策推進法」という法律をつくり、会社に対し、労働者を働かせすぎないよう求めています。
それにもかかわらず、会社が適切な対応をとらず、労働者が過労死してしまった場合、会社に「安全配慮義務違反」があったといえます。
会社の責任を追及したいとき
過労死が起きてしまったことに関して、会社の責任を追及したいときは、損害賠償請求をすることが考えられます。
請求ができる人
労働者が過労死した場合、ご遺族(相続人)が請求をおこなうこととなります。
法律上の根拠
裁判所で何かを請求する場合、法的な根拠が必要となります。
過労死の場合は、
- 雇用契約上の安全配慮義務違反(民法415条、労働契約法5条)
- 不法行為(民法709条)
などに基づいて損害賠償請求をすることになります。
請求の内容
「損害賠償請求」と一言にいっても、その内容には様々なものがあります。 過労死の場合、事案にもよりますが、代表的な請求内容は次のとおりです。
- 死亡による精神苦痛を償うもの(慰謝料)
- 労働者が、将来得られるはずであった収入を償うもの(逸失利益)
- 葬儀費用など
なお、労働者が過労のために脳・心臓疾患を発症して倒れ、そのまま遷延性意識障害、肢体麻痺、高次脳機能障害等の後遺障害が残ってしまったという場合には
- 将来にわたる労働者の減収を償うもの(逸失利益)
- 後遺障害による精神的苦痛を償うもの(慰謝料)
が請求できるほか、自宅の改装費用や将来の介護費用も請求できる場合もあります。
- Q裁判を通して、会社に謝罪してもらうことはできますか?
- A法律上、会社に強制的に謝罪をさせる判決を裁判所に出してもらうことはできません。謝罪広告の掲載を要求できるのも、名誉毀損のケースだけとされています。
しかし、交渉や訴訟を経て会社と和解をする場合であれば、和解条項において、会社に謝罪や再発防止に努める意思などを表明してもらうことは考えられます。
労災との違い
労災は、客観的な認定基準を満たした場合、経済的な補償として支給されるものです。そのため、労働基準監督署は、「会社に責任があるかどうか」ではなく、「仕事が原因で発症したかどうか」という観点から調査・認定をおこないます。
つまり、労災認定された場合、「仕事が原因で発症した」と認められたことにはなりますが、「会社に責任がある」と第三者に認められたことには、必ずしもなりません。
損害賠償請求の手続き
会社への損害賠償請求の手続きとしては、任意交渉と訴訟が考えられます。
過労死の損害賠償額は高額になるため、会社がなかなか支払いに応じようとしないことも多いですが、訴訟を負担に感じられるご遺族の方は、まず任意交渉を行ってみてもよいかもしれません。
会社が支払いに応じようとしない場合には、訴訟を提起するしかありません。訴訟は、通常、地裁で行う一審に1~2年かかります。一審で敗訴した会社が、判決を受け入れようとせず、控訴審(高裁)、上告審(最高裁)へ進むこともありますが、時間がたてばたつほど、会社が支払わなければならない遅延損害金の額が膨大な額になっていきます。
会社への損害賠償請求には、時効があります
不法行為に基づく損害賠償請求には、労働者が死亡したときから3年、安全配慮義務違反に基づく損害賠償請求には、労働者が死亡したときから10年の時効があります。
なお、労働者が過労のために脳・心臓疾患を発症して倒れ、そのまま遷延性意識障害、肢体麻痺、高次脳機能障害等の後遺障害が残ってしまったという場合にも、時効期間は過労死の場合と同じですが、時効の起算点は症状固定時になります。
相続放棄には注意が必要です
労働者が亡くなった後に、たとえば労働者に借金があったというような事情から、ご遺族の方が相続放棄の手続きをとることがあります。
しかし、いったん相続放棄の手続きをとってしまうと、過労死を理由に雇用主に損害賠償請求をすることができなくなります。なぜなら、会社への損害賠償請求は、過労死した労働者の会社に対する損害賠償請求権を相続したご遺族の方が行うものだからです。
ですから、過労死が疑われる場合には、相続放棄をするべきかどうか、慎重な検討が必要です。相続放棄の期間は死亡から3か月とされていますが、その期間の延長を申し立てることもできますし、他に限定承認という方法もありますので、ご遺族の方は、相続放棄をする前に弁護士に相談されることをお勧めします。