脊髄(せきずい)の傷害は、転落事故や下敷き事故でおこることが多いです。
脊髄を損傷した場合、次のような複雑な症状が表れることがあります。
- 四肢麻痺・対麻痺
- 感覚障害
- 尿路障害
- 腹部臓器の障害
- せき柱の変形
- せき柱の運動障害
せき髄損傷による麻痺
せき髄を損傷すると、多くの場合、四肢麻痺や対麻痺といった症状があらわれます。
四肢麻痺(ししまひ)とは : 上肢(腕)と下肢(足)の両方に麻痺があらわれる状態
対麻痺(ついまひ)とは : 下肢(足)のみ麻痺があらわれる状態
麻痺の程度には、完全麻痺と不完全麻痺があります。
完全麻痺とは : 完全に強直または完全に弛緩した状態
不完全麻痺とは : 運動させることはできるが可動範囲等に問題のある状態
損傷の場所と症状の関係
脊髄は、どの部分が損傷したかに応じて、表れる症状(運動・感覚障害の範囲)が変化します。たとえば次のとおりです。
頚髄(けいずい)の損傷 → 四肢麻痺
第2腰随から上の損傷 → 下肢全体の麻痺
第3仙随から下の損傷 → 肛門周囲の感覚障害や尿路障害
後遺障害等級の認定においては、MRI、CT等による画像診断・臨床所見・横断位診断が重視されます。
「神経系統の障害」としての認定
脊髄を損傷した場合、全身に様々な症状があらわれるため、それらを総合して、以下の後遺障害等級表(神経系統の障害)に従って後遺障害等級が認定されます。
また、脊髄そのものではありませんが、第2腰椎以下の脊柱内の馬尾神経を損傷した場合にも、脊随の損傷と同様の症状があらわれることから、同じ基準によって等級が認定されます。
例:軽度の尿路障害のみ認められる場合には、胸腹部臓器の障害として第11級の9となります。
・脊髄損傷に伴う胸腹部臓器の障害や脊柱の障害による障害等級が、麻痺により判断される障害の等級よりも重い場合には、それらの障害の総合評価により等級が認定されます。
後遺障害等級表
脊髄の障害については、次の7区分があります。
神経系統又は精神の障害
等級 | 障害の程度 | 労災保険による補償 |
第1級の3 | 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、常に介護を要するもの | 給付基礎日額の313日分(年金) |
第2級の2の2 | 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、随時介護を要するもの | 〃277日分(年金) |
第3級の3 | 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、終身労務に服することができないもの | 〃245日分(年金) |
第5級の1の2 | 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、特に軽易な労務以外の労務に服することができないもの | 〃184日分(年金) |
第7級の3 | 神経系統の機能又は精神に障害を残し、軽易な労務以外の労務に服することができないもの | 〃131日分(年金) |
第9級の7の2 | 神経系統の機能又は精神に障害を残し、服することができる労務が相当な程度に制限されるもの | 給付基礎日額の391日分(一時金) |
局部の神経系統の障害
等級 | 障害の程度 | 労災保険による補償 |
第12級の12 | 局部にがん固な神経症状を残すもの | 給付基礎日額の156日分(一時金) |
認定の基準
1級に認定される要件
次のいずれかに当てはまる場合は、「せき髄症状のため、生命維持に必要な身のまわり処理の動作について、常に他人の介護を要するもの」として第1級の3に認定されます。
- 高度の四肢麻痺が認められる
- 高度の対麻痺が認められる
- 中等度の四肢麻痺であって、食事・入浴・用便・更衣等について常時介護を要する
- 中等度の対麻痺であって、食事・入浴・用便・更衣等について常時介護を要する
2級に認定される要件
次のいずれかに当てはまる場合は、「せき髄症状のため、生命維持に必要な身のまわり処理の動作について、随時介護を要するもの」として第2級の2の2に認定されます。
- 中等度の四肢麻痺が認められる
- 軽度の四肢麻痺であって、食事・入浴・用便・更衣等について随時介護を要する
- 中等度の対麻痺であって、食事・入浴・用便・更衣等について随時介護を要する
3級に認定される要件
次のいずれかに当てはまる場合は、「生命維持に必要な身のまわり処理の動作は可能であるが、せき髄症状のために労務に服することができないもの」として第3級の3に認定されます。
- 軽度の四肢麻痺が認められる
- 中等度の対麻痺が認められる
※1級、2級の要件に当てはまる場合には、重い方の等級で認定されます
5級に認定される要件
次のいずれかに当てはまる場合は、「せき髄症状のため、きわめて軽易な労務のほかに服することができないもの」として第5級の1の2に認定されます。
- 軽度の対麻痺が認められる
- 一下肢の高度の単麻痺が認められる
7級に認定される要件
一下肢の中等度の単麻痺が認められる場合、「せき髄症状のため、軽易な労務以外には服することができないもの」として第7級の3に認定されます。
9級に認定される要件
一下肢の軽度の単麻痺が認められる場合、「通常の労務に服することはできるが、せき髄症状のため、就労可能な職種の範囲が相当な程度に制限されるもの」として第9級の7の2に認定されます。
12級に認定される要件
次のいずれかに当てはまる場合は、「通常の労務に服することはできるが、せき髄症状のため、多少の障害を残すもの」として第12級の12に認定されます。
- 運動性、支持性、巧緻性および速度についての支障がほとんど認められない程度の軽微な麻痺が残っている
- 運動障害は認められないものの、広範囲にわたる感覚障害が認められる
弁護士四方の解決事例(損害賠償請求)
- 解体工事中、横転したトラックの積み荷の下敷きとなり、脊髄損傷による両下肢の高度な対麻痺が残り、用便について常時介護を要する障害が残った事例(1級の3)
- 鉄鋼加工の作業中、倒れた鉄鋼の下敷きとなり、左足を負傷した事例。左下腿に可動域制限(関節拘縮)が認められ、左脛骨・左腓骨に萎縮が認められること、皮膚の変化(色調変化及び皮膚温の低下)が認められること、及び軽易な労務以外の労働に常に差し支える程度の疼痛があると認められることから、「複合性局所疼痛症候群(CRPS)」として7級の3が認定された。
弁護士 四方 久寛(大阪弁護士会所属)