下敷き事故は、典型的な労働災害の1つです。
製造・加工工場、倉庫、建設現場、荷受け場といった様々な現場で発生しています。
典型例
①工場内での事故
- 製造した部品(重量物)をクレーンで移動させていたところ、部品が落下し下敷きとなった。
- 加工済みの鉄骨を壁に立てかけていたところ、鉄骨が倒れ下敷きとなった。
②倉庫内での事故
- 積み重ねていたダンボール箱が崩れ、下敷きとなった。
- カゴを高く積み重ねてリフトで運搬中、バランスを崩して落下し下敷きとなった。
③建設現場での事故
- 設置していた仮設設備が崩落し、作業員が下敷きとなった。
- クレーン車などが横転し下敷きとなった。
④荷受けの際の事故
- 荷下ろし中、トラックから荷物が滑落し下敷きとなった。
残りやすい後遺障害
下敷き事故の被害を受けた人(被災労働者)は、落下物の衝撃によって、重大な障害が残りやすい傾向があります。
特に、足のほか、頸椎や腰椎を損傷してしまうケースが目立ちます。
切断事故とは異なり、見た目には症状が分かりづらい場合も少なくないのですが、長期にわたる治療・リハビリをおこなっても、結局、後遺障害が残ってしまうことがあります。
後遺障害が残ると、労災保険より障害補償給付を受給することができますが、必ずしも十分な補償を受けられるとは限りません。
特に、せき柱の障害については、動作の制限が大きく、肉体労働はもちろん「ずっと座っている」ことも負担が大きいため、日常生活・仕事への支障が大きいといえますが、「せき柱に変更を残すもの」という認定であれば、後遺障害の等級は11級となり、障害一時金(給付基礎日額の223日分)しか受け取ることができません。
後遺障害が残った場合には、使用者や関連会社への損害賠償請求を検討されることをお勧めします。
使用者・関連会社の責任
使用者への損害賠償請求
使用者は、労働者が安全に仕事ができるよう配慮する義務(安全配慮義務)を課せられていますが、使用者がこれを怠ったことにより、下敷き事故が発生していることが多いです。
この場合、被災労働者は、労働災害による被害について、会社へ賠償を求めることができます(詳しくは:会社への損害賠償請求)。
下敷き事故には、安全配慮義務違反があると考えられるケースでも、さらに
- 使用者の責任(安全配慮義務違反)がある程度明らかなもの
- 本人のミスが原因であるととらえられがちなもの
の両方のケースがあります。
たとえば、冒頭の典型例①②で挙げたクレーン・リフトからの落下物の下敷き事故の場合、これらを運転・操作していたのが、被災者本人ではなく別の作業員であれば、客観的にみても、被災労働者本人には非がなく、責任の所在が他の人(使用者など)にあることがある程度明らかです(ただ、この場合でも、「危険領域に侵入した」「被災者本人が監督を怠ったことが一因である」などの事情があれば、本人の過失が一部認められる可能性もあります)。
逆に、被災労働者本人がクレーン・リフトを運転しているときに運搬物が落下した場合には、「本人のミス」が全てであるととらえられがちです。
しかし、実際には、使用者が危険な作業方法を命じていたなど、会社の安全配慮義務違反が原因で事故が発生していて、損害賠償請求が可能であることが少なくありません。
典型例③(建設現場において仮設設備が崩落したケース)では、責任の所在が複雑になりがちです。
通常、「設置」作業は複数の作業員が共同でおこなっていて、そのうえ元請け・下請け・孫請けといった別々の事業所の作業員が混在している場合が少なくないからです。
このケースでは、崩落した原因は何か、設置をおこなった作業員や責任者(現場監督)は誰か、被災労働者本人はどういった立場か、などの事情により、損害賠償請求が可能かどうか、どの事業所が責任を負うかが左右されます。
典型例④(トラックから荷物が滑落したケース)でも、荷物が滑落した原因は何か、どういった作業方法を使用者が命じていたか、使用者が滑落防止策を講じていたかなどにより、損害賠償請求が可能かどうか、被災労働者の過失がどの程度考慮されるかが左右されます。
安全配慮義務違反
たとえば、次のことが原因で事故が発生した場合には、安全配慮義務違反があったと考えられます。
- 無資格者にリフト・クレーンを運転させていた
- 不備や故障を抱えたリフト・クレーンを使用させていた
- 必要な作業責任者・現場監督などを配置していなかった
- 危険な作業方法を労働者に指示していた
- 安全装置が設置されていなかった
ただし、これらに当てはまれば、直ちに賠償してもらえるということではありませんから、実際に損害賠償請求が成り立つかどうかは、労働災害の分野に詳しい弁護士へご相談ください。
関連会社への損害賠償請求
労働災害の損害賠償請求は、通常、使用者(労働者が所属している会社)に対しておこないますが、場合によっては、関連会社に対しておこなうことも可能です。
たとえば、建設現場における事故では、元請け・下請け・孫請けが混在して作業をおこなっていたり、工場でも、発注者・元請け・下請けが混在して製造・加工をおこなっていたりするケースが珍しくありません。
こうした関連会社の安全配慮義務違反によって事故が発生していると考えられる場合、複数の会社に対して損害賠償請求をおこなうこともあります。
大阪労災・労働法律事務所での解決事例
大阪労災・労働法律事務所では、下敷き事故の労災事案を多数解決してきました。
以下、その一部をご紹介します。
クレーンから落下した鉄骨の下敷き事故
溶接作業員が、溶接した鉄骨をクレーンのクランプに挟み込んで移動させていたところ、クランプがはずれて鉄骨が落下し、下敷きとなった事故。左足の関節の可動域が制限されるなど7級の後遺障害が残りました。
主な事故原因(安全配慮義務違反の内容)は①無資格者にクレーンを操作させていたこと②クレーンに不備があった(クランプが摩耗していて運搬物をしっかり掴めないようになっていた)ことにありました。
直接の雇用主(工場の業務の一部を請け負っていた構内請負業者)のほか、クレーンの所有者である工場の運営会社の両者へ損害賠償請求をおこないました。
後遺障害が重く、請求額も高額になったことから激しい争いになりましたが、民事訴訟で解決することができました。
トラックから滑落した荷物の下敷き事故
トラックの荷下ろし中、荷物がトラックの荷台の床面取り付けられたローラーを滑って滑落し、下敷き事故が発生。左膝に10級の後遺障害を負いました。
主な事故原因(安全配慮義務違反の内容)は、ストッパー(荷物の滑落を防止するもの)の故障を会社が放置していたことにありました。
事故の発生経緯がさほど複雑でなかったことから、労働審判で解決することができました。
リフトと積み荷の転倒による下敷き事故
製造工場で、手押し式電動リフトにカゴを高く積み上げて運搬していたところ、バランスが崩れ、リフト・積み荷が転倒した事故。
詳しくは「積み荷の落下による下敷き事故の損害賠償解決事例」で解説しています。
高所作業用リフトの転倒による下敷き事故
元請け・下請けが混在している環境整備工事現場において、下請会社に所属する労働者が、元請け会社従業員の指揮命令のもと、高所作業用リフトを移動させるため、他従業員と横向きに寝かせようとしたところ、高所作業用リフトが倒れ下敷きとなり、右足に12級の後遺障害を負った事故。
主な事故原因(安全配慮義務違反の内容)は、適切な人員配置などの措置を講じず、高所作業用リフトの取扱説明書で指定されたのとは異なる危険な作業方法を命じたことにありました。
元請会社・下請会社の両者へ損害賠償請求をおこない、労働審判で解決することができました。