機械に体の一部が巻き込まれたり、挟まれたり、鋭利な部分にあたって切断してしまうというのは、典型的な労働災害の1つです。
主に、金属などの製造・加工業、食品加工業といった工場内のほか、機械を使用する様々な現場で発生しています。
典型例
巻き込まれ事故
作業中・清掃中に、体や衣服の一部が稼動している機械に巻き込まれ、負傷する事故。
- ローラー部・Vベルト・コンベアへの巻き込まれ
- ドリルの刃や旋盤の回転軸に手袋ごと手が巻き込まれる
挟まれ事故
固定部分と可動部分(または可動部分同士)の間に身体の一部が挟まれ、負傷する事故。
- プレス機の操作中に手指が挟まれる
- 稼動中の機械の可動部分のすき間や機械と製品の間に挟まれる
- 扉や蓋を閉める際に手指が挟まれる
切断
鋭利な機械を用いて作業中、刃に手指が接触し、切断する事故。
また、稼働中の機械の近辺にいたところ、転倒・転落などにより身体が刃と接触し、負傷する事故。
- カット作業中、刃が直接手指にあたったり、切りくずに手袋が接触して手が回転刃に巻き込まれて、手や指を切断する事故(切断機、電動ノコギリ、サンダーなど)
- 金属加工中、刃が手指にあたり切断する事故(ボール盤、旋盤など)
- 稼働中のミキサー・モーターのベルト部分などへの転落による切断
休業が必要な間は、労災の補償を受けること
被災労働者は、退院後も医師が「休業が必要」と診断している間は労災保険から休業補償給付を受給することができます。当然、会社に出勤する必要はありません。
ところが、医師が「休業が必要」としているにもかかわらず、会社が労働者に出勤を命じたり、治療中にもかかわらず、軽作業ではなく従来の作業をさせようとすることがあります。特に、初めから労災保険を使わせようとしない悪質な会社に顕著なケースです。
こうした指示は労働者の治療を阻害するものですし、労災隠しの意図の下におこなわれることもあり、従う必要はありません。
休業が必要な間は、労災保険を使って治療に専念することが大切です。
使用者・関連会社の責任
使用者への損害賠償請求
機械への巻き込まれ・挟まれ・切断事故では、表面的な原因は「身体(または衣服)の一部を、労働者が誤って機械の危険領域に入れてしまった」ことが典型例です。
この場合、事故発生は本人のミスが全てであると考えられがちですが、実は、より根本的には、会社の安全対策の杜撰さが原因であるケースが多く存在します。
使用者は、労働者が安全に仕事ができるよう配慮する義務(安全配慮義務)を課せられています。使用者がこれを守らず、労災事故が発生した場合、被災労働者は、その被害について会社へ損害賠償請求をおこなうことが考えられます(詳しくは:「会社への損害賠償請求」)。
安全配慮義務違反の具体例
たとえば、次の原因で事故が発生している場合には、安全配慮義務違反があったと考えられます。
- 機械を稼動させたまま清掃や修理をさせた
- 故障した機械を労働者に使用させていた
- 安全装置を停止させていた
- 機械の構造上、不適切なすき間があった
- 必要な覆いや安全センサーが設けられていなかった
- 適切な防護具を使用させなかった
基本的な考え方としては、「労働者が機械に巻き込まれたり、挟まれたり、切断してしまわないよう、危険を防ぐ措置(防護措置)をとっていたか」がポイントです。
機械に関する労働災害は、昔から一般的に、多くの現場で発生しています。
それを前提として、様々な法規則が、事業所にあらかじめ防護措置を講じるよう求めているのです。
ただ、上記の安全配慮義務違反があれば、直ちに会社から賠償してもらえるという単純な話ではありません。
個別のケースについて損害賠償請求が可能かどうかは、ご相談ください(ご相談はこちら)。
関連会社への損害賠償請求
工場で働く労働者は、派遣やいわゆる構内請負など、複雑な関係の下で勤務していることが少なくありません。
次の場合には、使用者(労働者が所属している会社)だけではなく、関連会社へも損害賠償請求をおこなうことが考えられます。
①派遣労働者の場合
派遣会社に雇用され、製造工場などに派遣されている労働者が、派遣先で事故に遭った場合には、雇用主である派遣会社はもちろん、派遣先の会社に対しても損害賠償請求が可能です。
②偽装請負の場合
他社の工場内の業務の一部を請け負っている請負会社に雇用された労働者が、工場を運営している会社の作業員から直接の指揮命令を受けながら作業に従事することがあります。これは実質的には派遣労働者の就労形態なのですが、工場を運営している会社が①のような責任を回避するために請負を装っていることから、これを「偽装請負」といいます。
このような場合も、雇用主である請負業者だけでなく、工場を運営している会社に対しても損害賠償請求を行うことが考えられます。
③その他
他社の工場内の業務の一部を請け負っている請負(構内請負)会社に雇用された労働者が、同じ工場内の別の請負(構内請負)会社から指揮命令を受けていたり、事故の原因となった設備や機械を雇用主以外の会社が管理していたというような場合には、それらの会社も、労働者の作業条件を支配していたと言え、それらの会社に対して損害賠償請求が可能な場合があるでしょう。
解決事例
大阪労災・労働法律事務所で解決した事例の一部をご紹介します。
センタリングマシンでの挟まれ
派遣会社から金属加工工場へ派遣されていた労働者が、センタリングマシンを操作して金属材料に穴を空けたり切削したりする加工作業をおこなっていたところ、機械のスピードを調整するためのつまみを操作していたときに機械の可動部分が急降下し、つまみを掴んでいた右手が挟まれ、13級の後遺障害を負ったもの。
主な事故発生の原因(安全配慮義務違反の内容)は、固定部分と可動部分との間に身体の一部が挟まれることがないよう、操作つまみを安全な場所に設置したり、可動部分に手が入らないよう可動部分の周りに覆いを設けるなどの適切な措置がとられていなかったことにあります。
派遣先会社に損害賠償請求をおこない、民事訴訟で解決することができました。
コンベアの清掃中の挟まれ
食品製造工場において、稼働中の回転式コンベアを清掃していたところ、手が固定部分と可動部分の間に挟まれ、右手指の一部を失う14級の後遺障害を負った事故。
主な事故発生の原因(安全配慮義務違反の内容)は、機械を停止させないままでの清掃が常態化していたのに、会社が何の指導もしていなかったことにあります。
任意交渉の段階では双方の主張の隔たりが大きく和解できませんでしたが、その後労働審判を申し立てたところ、解決できました。
バンドソーによる切断
食品工場で、バンドソーを用いたカット加工に従事していたところ、稼働中のバンドソーの刃に指が当たり、指を切断した事故。
詳しくは「労災事故の損害賠償解決事例(バンドソーによる切断)」で解説しています。
ローラーへの巻き込まれ
アルバイト労働者が、ラッピング機の操作方法の指導を受けていたところ、上司が機械のローラー部に取り付けられた安全装置についての説明と称して、不用意に稼働中のローラー部に手を近づけさせたところ、安全装置が作動せず、そのまま右手が巻き込まれ12級の後遺障害が残った事故。
事故発生の経緯が悪質で、しかも会社が労災隠しをおこなおうとしたことから、慰謝料を増額して請求。任意交渉で解決することができました。
プレス機による挟まれ・切断
労働者が、工場内で足踏み操作式プレス機を操作して金属材料をプレスする作業をおこなっていたところ、誤って右手がプレス機に挟まれ、右示指・中指を切断し母指の用を廃する8級の後遺障害が残った労災事故。
主な事故発生の原因(安全配慮義務違反の内容)は、作業中にプレス機の危険限界に身体の一部が入らないようにする措置(安全センサー等の安全装置を取り付ける、両手ボタン式スイッチを使用させるなど)を怠ったことにありました。
使用者側は、プレスの作業工程や会社の指示について事実と異なる主張をくり返しましたが、最終的に、民事訴訟で解決することができました。