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眼、眼球、まぶたの後遺障害(労災)

労災における眼、眼球、まぶたの後遺障害については、以下のものがあります。

視力障害(失明、視力の低下)

後遺障害等級表

等級 身体障害 補償給付
第1級の1 両眼が失明したもの 給付基礎日額の313日分(年金)
第2級の1 一眼が失明し、他眼の視力が0.02以下になったもの 〃277日分(年金)
第2級の2 両眼の視力が0.02以下になったもの 〃277日分(年金)
第3級の1 一眼が失明し、他眼の視力が0.06以下になったもの 〃245日分(年金)
第4級の1 両眼の視力が0.06以下になったもの 〃213日分(年金)
第5級の1 一眼が失明し、他眼の視力が0.1以下になったもの 〃184日分(年金)
第6級の1 両眼の視力が0.1以下になったもの 〃156日分(年金)
第7級の1 一眼が失明し、他眼の視力が0.6以下になったもの 〃131日分(年金)
第8級の1 一眼が失明し、又は一眼の視力が0.02以下になったもの 給付基礎日額の503日分(一時金)
第9級の1 両眼の視力が0.6以下になったもの 〃391日分(一時金)
第9級の2 一眼の視力が0.06以下になったもの 〃391日分(一時金)
第10級の1 一眼の視力が0.1以下になったもの 〃302日分(一時金)
第13級の1 一眼の視力が0.6以下になったもの 〃101日分(一時金)

認定の基準

視力の測定について

視力の測定は、原則、万国式試視力表によっておこなわれます。
(健康診断などでよく見る、Cの文字のようなもの(ランドルト環)で、円の上下左右どの部分が空いているか答えるものです)

上記の障害等級表の視力は、眼鏡・コンタクトレンズ・眼内レンズによる矯正後の視力で判断されます。
ただし、矯正が不可能な場合には、裸眼視力によって判断されます。

①眼鏡で完全矯正した視力の測定
角膜の不正乱視が無く、かつ、眼鏡による完全矯正をおこなっても不等像視が生じない場合、眼鏡により矯正した視力を測定して障害等級が認定されます。
※不等像視とは、左右両眼の屈折状態等が異なるため、左眼と右眼の網膜に映ずる像の大きさ、形が異なるものをいいます。

②コンタクトレンズによる矯正視力の測定
①に該当しないケースで、コンタクトレンズの装用が医学的に可能であり、かつ、これによって良好な視界が得られる場合には、コンタクトレンズにより矯正した視力を測定して障害等級が認定されます。

③眼鏡による矯正の程度を調整した視力の測定
眼鏡による完全矯正をおこなえば不等像視が生じる場合で、コンタクトレンズも装用できない場合には、眼鏡矯正の程度を調整して不等像視の出現を回避しうる視力により後遺障害が認定されます。

コンタクトレンズ装用の可否は、医師の管理下で3か月間試行的に装用した後に判断されます。また、1日8時間以上の連続装用が可能な場合に、「装用が可能」と認められます。

失明とは

失明とは、以下の状態をいいます。

  • 眼球を亡失(摘出)した状態
  • 明暗を弁じ得ない状態
  • ようやく明暗を弁ずることができる程度の状態

「失明」には、全盲(明暗も識別できない状態)だけではなく、光覚弁(照明を点滅させると、明暗が識別できる状態)、手動弁(眼前で物を動かすと、動きの方向を識別できる状態)も含まれます。

両眼に視力障害がある場合

両眼に視力障害がある場合には、1眼ごとに等級を当てはめ、それらを併合繰り上げによって準用等級を定めるのではなく、両眼の視力障害の該当する等級によって認定されます。
ただし、両眼の該当等級よりも、1眼の該当する等級の方が重くなる場合には、1眼のみに障害が残っているものとみなし、等級が認定されます。

例:1眼の視力が0.5、他眼の視力が0.02の場合、両眼の視力障害としては第9級の1に該当しますが、1眼の視力障害としては第8級の1に該当します。
この場合、第8級の1として後遺障害が認定されます。

調節機能障害(調整力の低下)

後遺障害等級表

等級 身体障害 補償給付
第11級の1 両眼の眼球に著しい調節機能障害を残すもの 給付基礎日額の223日分(一時金)
第12級の1 一眼の眼球に著しい調節機能障害を残すもの 〃156日分(一時金)

認定の基準

「著しい調整機能障害」とは

「眼球に著しい調節機能障害を残すもの」とは、調整力が通常の場合の1/2以下に減じた状態をいいます。
「調整力」とは、明視できる遠点から近点までの距離的な範囲(調節域)をレンズに換算した値(単位はジオプトリー(D))です。

調節力が1/2以下に減じているか否かの判断

被災した眼が1眼のみの場合
被災していない眼の調節力に異常がない場合は、両者の調節力を比較して判断されます。
この場合、被災していない眼の調整力が1.5D以下である場合には、実質的な調整の機能は失われていると判断され、障害補償の対象とはなりません。

両眼が被災した場合
両眼が被災した場合や、被災していない眼の調節力に異常がある場合は、年齢別の調節力を示す下表の調節力値との比較により判断されます。
この場合、治癒(症状固定)時の年齢が55歳以上であれば、障害補償の対象となりません。

【5歳毎年齢の調節力】

年齢 15 20 25 30 35 40 45 50 55 60 65
調節力(D) 9.7 9.0 7.6 6.3 5.3 4.4 3.1 2.2 1.5 1.35 1.3

 

運動障害(注視野の減少、複視)

後遺障害等級表

等級 身体障害 補償給付
第10級の1の2 正面視で複視を残すもの 給付基礎日額の302日分(一時金)
第11級の1 両眼の眼球に著しい運動障害を残すもの 〃223日分(一時金)
第12級の1 一眼の眼球に著しい運動障害を残すもの 〃156日分(一時金)
第13の2の2 正面視以外で複視を残すもの 〃101日分(一時金)

認定の基準

「著しい運動障害」とは

「眼球に著しい運動障害を残すもの」とは、眼球の注視野の広さが1/2以下に減じた状態をいいます。
「注視野」とは、頭部を固定した状態で、眼球を運動させて直視することのできる範囲のことです。注視野の広さは個人差がありますが、平均では、単眼視では各方面約50度、両眼視では各方面約45度です。

複視とは

右眼と左眼の網膜の対応点に外界の像が結像せずにずれているために、ものが二重にみえる状態です。

「複視を残すもの」とは

次のいずれにも該当する場合、「複視を残すもの」と判断されます。
①本人が複視のあることを自覚していること
②眼筋の麻痺等複視を残す明らかな原因が認められること
③ヘススクリーンテストにより患側の像が水平方向又は垂直方向の目盛りで5度以上離れた位置にあることが確認されること

上記の3つの条件を満たしたうえ、ヘススクリーンテストによって正面視で複視が中心の位置にあることが確認されると「正面視で複視を残すもの」(第10級の1の2)となります。

視野障害(視野の欠損、狭窄、暗点)

後遺障害等級表

等級 身体障害 補償給付
第9級の3 両眼に半盲症、視野狭さく又は視野変状を残すもの 給付基礎日額の391日分(一時金)
第13級の2 一眼に半盲症、視野狭さく又は視野変状を残すもの 〃101日分(一時金)

認定の基準

視野の測定

視野とは、眼前の1点を見つめていて、同時に見える外界の広さのことです。
視野の測定は、ゴールドマン型視野計によっておこなわれます。

半盲症、視野狭さく、視野変状とは

半盲症とは、両眼の視野の右半部又は左半部が欠損する病気です。
両眼同側の欠損するものは同側半盲、両眼の反対側の欠損するものは異名半盲といいます。

視野狭さく(狭窄)とは、視野が狭くなる病気です。脳梗塞などの脳血管障害により生じることもあります。
視野狭さくには、同心性狭さく(周辺から視野が狭くなるもの)と不規則狭さく(一部の視野が不規則狭くなるもの)があります。

視野変状とは、半盲症、視野の欠損、視野狭さく及び暗点の総称ですが、このうち、半盲症・視野狭さくは障害等級表で明示されているので、ここ(第9級の3・第13級の2)では、暗点と視野欠損が対象となります。
暗点とは、生理的視野欠損(盲点)以外の病的欠損を生じた状態をいいます。

半盲症、視野狭さく、視野変状の認定

V/4視標による8方向の視野の角度の合計が、正常視野の角度の60%以下になった場合、「半盲症」、「視野狭さく」及び「視野変状」であると認定されます。

日本人の視野の平均値は、次のとおりです。

視野方向 V/4
60(55-65)
上外 75(70-80)
95(90-100)
外下 80(75-85)
70(65-75)
下内 60(50-70)
60(50-70)
内上 60(50-70)

まぶたの障害

欠損障害(まぶたの欠損)

後遺障害等級表

等級 身体障害 補償給付
第9級の4 両眼のまぶたに著しい欠損を残すもの 給付基礎日額の391日分(一時金)
第11級の3 一眼のまぶたに著しい欠損を残すもの 〃223日分(一時金)
第13級の3 両眼のまぶたの一部に欠損を残し又はまつげはげを残すもの 〃101日分(一時金)
第14級の1 一眼のまぶたの一部に欠損を残し、又はまつげはげを残すもの 〃56日分(一時金)

認定の基準

「まぶたに著しい欠損を残すもの」とは、閉瞼時(普通にまぶたを閉じた場合)に、角膜を完全に覆い得ない程度の状態をいいます。
「まぶたの一部に欠損を残すもの」とは、閉瞼時に角膜を完全に覆うことができるが、球結膜(しろめ)が露出している程度の状態をいいます。
「まつげはげを残すもの」とは、まつげ縁(まつげのはえている周縁)の1/2以上にわたってまつげのはげを残すものをいいます。

運動障害(開閉の困難)

後遺障害等級表

等級 身体障害 補償給付
第11級の2 両眼のまぶたに著しい運動障害を残すもの 給付基礎日額の223日分(一時金)
第12級の2 一眼のまぶたに著しい運動障害を残すもの 〃156日分(一時金)

認定の基準

「まぶたに著しい運動障害を残すもの」とは、開瞼時(普通に開瞼した場合)に瞳孔領を完全に覆うもの又は閉瞼時に角膜を完全に覆い得ない状態をいいます。

その他の後遺障害

後遺障害等級表には明記されていないものの、外傷性散瞳(瞳孔の直径が開大して対光反応が消失又は減弱する状態)については、次のように認定することとされています。

①1眼の瞳孔の対光反射が著しく障害され、著明な羞明(まぶしい状態)を訴え労働に著しく支障をきたす場合→第12級を準用
②1眼の瞳孔の対光反射はあるが不十分であり、羞明を訴え労働に支障をきたす場合
→第14級を準用
③①が両眼の場合→第11級を準用
②が両眼の場合→第12級を準用

併合(等級の繰り上げ)

労災により、複数の後遺障害が残った場合、併合(等級の繰り上げ)がおこなわれる場合があります。等級の繰り上げがおこなわれるか否かは、やや複雑な決まりがありますので、弁護士にご相談ください。

弁護士四方の解決事例(損害賠償請求)

  • 溶接棒で目を突く労災事故で、一方の眼を失明した事例(8級の1)
  • 高所から転落し頭部等を打撲する労災事故で、左外傷性滑車神経麻痺により正面視で複視が残存した事例(10級の1の2)

弁護士 四方久寛(大阪弁護士会所属)