事案の概要
※プライバシー保護の観点から、事案の本質を損ねない範囲で変更を加えています。
X会社の製造工場で勤務する従業員Aさんは、工場内を移動中、空の台車に足をとられたため転倒し、上半身を強打してしまいました。この労災事故は、人通りが多く狭い通路で、Aさんがすれ違う同僚を避けようとしたとき発生したものでした。
Aさんは腕や肩に可動域の制限が残る後遺障害を負ったため、会社に対し、労働審判を利用して損害賠償請求をしました。
会社側の主張
X会社は、台車に足を乗せてしまったのはAさん自身であり、労災事故はAさんの不注意(過失)によるものであるとして、会社に損害を賠償する義務はないと主張しました。
労働者側の主張
労働者側からは、Aさんの労災事故は、会社が通路を安全な状態に整備していなかった安全配慮義務違反により発生したものであると主張しました。
足をとられた台車は、普段別の場所で管理されていて、Aさんの労災事故が発生した人通りが多く狭い通路に置かれていたのは初めてのことでした。また、当時、通路には雑然と物が置かれていて見通しも悪く、しかも、Aさんは上司に急いで移動するよう指示を受けており、会社の責任(安全配慮義務違反の程度)は大きいと主張しました。
裁判所の判断
裁判所は、労働者側の主張を認め、労災事故についてのX会社の責任は大きく、Aさんの過失は小さいと判断しました。そして、会社側に1100万円の支払義務があると認めました。
四方弁護士からのコメント
「労働者が転倒してケガをした」と一言にいっても、その背景には、作業方法や作業環境の不備が深く関わっているケースが多くあります。
労災事故の事案では、会社側が労働者の過失を不当に大きくとらえる傾向にありますが、法令の規定などを参考にしながら、会社の安全配慮義務違反を一つ一つ丁寧に指摘し、裁判所に労働者側の主張を認めてもらうことが大切です。