2019年6月3日より、名称を「四方法律事務所」から「大阪労災・労働法律事務所」に変更しました。

過労死(脳・心臓疾患の認定基準)の対象疾病8疾患

認定基準における具体的な対象疾病8疾患


長時間労働などの過重労働により、脳・心臓疾患を発症し、死に至ることを「過労死」といいます。

過労死であるとして労災申請をした場合、労働基準監督署は「脳・心臓疾患の認定基準」(正式名称は「脳血管疾患及び虚血性心疾患等(負傷に起因するものを除く。)の認定基準」)によって、労災であるか否かの判断をおこないます。

ですが、この認定基準は、すべての脳・心臓疾患を対象としているわけではありません。
具体的には、次の8疾患に限定されています。

  1. 脳血管疾患
    • 脳内出血(脳出血)
    • くも膜下出血
    • 脳梗塞
    • 高血圧性脳症
  2. 虚血性心疾患等
    • 心筋梗塞
    • 狭心症
    • 心停止(心臓性突然死を含む。)
    • 解離性大動脈瑠

「虚血性心疾患等」の「等」というのは、心筋梗塞、狭心症、心停止は「虚血性心疾患」である一方、解離性大動脈瑠は「虚血性心疾患」に含まれないため、このような書き方がされています。

上記の8疾患は、医学的に、業務の過重負荷により発症することがあると認められています。逆に言うと、上記以外の脳・心臓疾患については、現在、過重負荷に関連して発症することが考えにくいとされています。

「脳・心臓疾患の認定基準」は、あくまで上記の疾病を発症したものが前提であるため、これら以外の疾病を発症した場合には、同認定基準では判断されません。
この場合、業務疾病の認定の原則どおり、業務と発症した疾病との間に相当因果関係があるか否かで判断されることになります。

上記8疾患に該当する場合 → 脳・心臓疾患の認定基準を満たせば認定
対象疾病に該当しない場合 → 相当因果関係が認められれば認定

ただし、後述するように、医師に下された診断名が上記の疾病と異なっている場合でも、実質的に上記の8疾病に含まれると考えられる場合には、認定基準により判断されることもあります。

どのような病気?

脳・心臓疾患は血管の病気

認定基準で対象とされている脳の病気・心臓の病気は、いずれも血管に異変が生じることで発症してしまうため、「血管の病気」ということができます。

それでは、各々について、どのような病気か簡単にご説明します。
(参考:脳・心臓疾患の認定基準に関する専門検討会報告書)

脳血管疾患

脳出血

脳実質内に出血が生じる病態の総称です。
高血圧、脳動脈瘤、脳腫瘍などの原因によって脳出血がおき、血腫が脳実質を圧迫・破壊し、次のような神経症状が発生します。

特に前触れとなる症状はなく、多くは会議中など、昼間の活動時に発病する。最初にしびれ感やめまい感が起こり、半身の脱力や動かしづらさ(片麻痺や運動失調)、半身の感覚異常、言葉のしゃべりづらさ(構音障害や失語症)などの脳局所症候、頭痛、吐き気、嘔吐などの脳亢進症候、意識障害などが数時間の経過で起こってくる。


脳・心臓疾患の認定基準に関する専門検討会報告書

くも膜下出血

脳動脈瘤、能動静脈奇形、脳出血、脳腫瘍などの頭蓋内疾患、血小板減少症や凝固異常などの出血性素因によって、頭蓋内血管が破綻し、血液がくも膜下腔内に出血をきたします。
原因の75%は脳動脈瘤の破裂であり、この場合、次のような症状があらわれます。

「脳動脈瘤破裂は突然のきわめて激しい頭痛(突然、頭をバットで殴られたような痛み)と吐き気、嘔吐で発病する。意識障害を伴う。患者はこの発症に先行して、頭痛を経験している場合があり、軽度のくも膜下出血が先行している可能性がある。」
「くも膜下出血発作に前駆する頭痛が、発作の4~20日前において約4分の1の患者に認められる。」


脳・心臓疾患の認定基準に関する専門検討会報告書

頭痛、視覚障害、吐き気・嘔吐が破裂警告サインとされています。
脳・心臓疾患の労災認定の調査では、「発症日がいつか」が重要なポイントの一つですが、これらの前駆症状がみられた場合には、実際に倒れた日ではなく、関連した症状が出現した日が発症日となります。
そして、労働基準監督署は、発症日前6か月間に過重労働があったかによって、労災か否かを判断します。

脳梗塞

血管・血流・血液の異常が原因で、脳血管の血流障害がおこり、脳実質が壊死してしまう状態をいいます。
血流障害がおこる血管に応じて、片麻痺、半身感覚障害、失語症、昏睡といった重篤な症状が現れます。

高血圧性脳症

著しい血圧の上昇が原因で、頭痛、意識障害、痙攣、視力障害など、次の症状があらわれる状態をいいます。

激しい頭痛、吐き気、嘔吐、意識障害(錯乱~昏睡)、痙攣、うっ血乳頭、視力障害などを呈する。網膜には出血、動脈硬化性変化などを認める。


脳・心臓疾患の認定基準に関する専門検討会報告書

虚血性心疾患等

心筋梗塞

プラークが突然破綻することで冠動脈が閉塞し、血流が途絶することで心筋壊死してしまう状態をいいます。
強い胸部絞扼感、嘔吐等の症状、左上肢への放散痛などの症状があります。

狭心症

冠動脈の異常により、心筋に必要な酸素が不足し、一時的な胸部症状(痛みや圧迫感)がおこる症候群です。

心停止

心拍がなくなり、循環が止まってしまう状態をいいます。

解離性大動脈瘤

3層構造(内膜、中膜、外膜)になっている大動脈の壁のうち最も内側にある内膜の一部に裂け目ができ、その裂け目から真ん中にある中膜の中に血液が入り込んだ結果、大動脈の壁が内膜と最も外側にある外膜との間で血流の方向に沿って裂けていくことを大動脈解離といい、中膜に流れ込んだ血液が外膜を圧迫して大動脈が膨らみ、破裂の危険性を伴う状態を解離性大動脈瘤といいます。
突然、胸部や背中に激痛が起こり、病状が進むにつれて痛みが腹部や足へと移っていきますいきなり意識消失状態に陥ったり、解離が臓器の血管まで進展し臓器が壊死して死に至ることもあります。

後遺障害が残りやすいのが特徴

脳・心臓疾患を発症して、一命は取り留めた場合でも、後遺障害が残ってしまうケースが少なくありません。
特に、脳の病気では片麻痺や言語障害、寝たきりといった重篤な後遺障害が残りやすいです。また、心臓疾患の場合でも、心機能が低下し、狭心症や不整脈などがあらわれたり、ペースメーカーを植え込みしなければならないことがあります。
これらは、疾病による後遺障害として、労災補償の対象となります。

対象疾病の例外- 脳卒中・急性心不全・不整脈の場合

「脳卒中」「急性心不全」「不整脈」は、上記で説明した対象疾病8疾患の中にはありませんでした。
しかし、脳・心臓疾患の認定基準において、次のように、対象疾病となり得るとされています。

①脳卒中

脳卒中は、脳血管発作(血管が詰まる、破れるなど)により何らかの脳障害を起こしたものをいい、脳血管疾患の総称として用いられています。つまり、「脳卒中」は具体的な疾患名ではありません。
しかし、対象疾病である脳内出血(脳出血)、くも膜下出血、脳梗塞、高血圧性脳症のいずれかを発症している可能性が高いといえます。認定実務では、診断名が脳卒中である事案に関して、対象疾病以外の疾病であることが確認された場合以外には、認定基準によって判断することとされています。

②急性心不全

急性心不全(急性心臓死、心臓麻痺等と言う場合も含む)は、急激に心臓の機能が低下する状態をいい、具体的な疾患名ではありません。
しかし、脳卒中と同様、急性心不全の原因となった疾病が、対象疾病以外の疾病であることが確認された場合を除き、認定基準によって判断することとされています。

③不整脈

「不整脈による突然死等」は、過去の通達(平成8年1月22日付け基発第30号)で対象疾病とされていましたが、不整脈が一義的な原因となって心停止又は心不全症状等を発症したものであることから、現在は「心停止(心臓性突然死を含む。)」に含めて取り扱うこととされています。

診断名が異なっていても、労災認定された実例

死亡診断書の診断名が、認定基準で定められている8疾患ではなく、さらに脳卒中・急性心不全・不整脈でもない場合でも、実質的に対象疾病であると考えられれば、認定基準に沿って労災認定されるケースがあります。

過労死は、多くの場合、直前までその症状が見られません。「突然死」と呼ばれる所以です。
一命を取り留めた場合には、被災労働者の問診や治療の経過によって、正確な診断名が特定されることが多いでしょう。しかし、被災者がお亡くなりになっている場合には、被災労働者本人から発症の経緯や症状を聞くことはできませんし、事件性がないと判断された場合には解剖も行われないことが多いため、検案を行う医師は、死亡診断書(死体検案書)に、遺族から聴取した被災労働者の既往歴や遺体の状態だけから判断される死因名を記載することになります。
ですから、「脳の病気」「心臓の病気」ということは分かっても、常に細かく正確な診断名を出せるわけではありません。

実際に、弊所で解決した事案でも、死体検案書の診断名が「高血圧性心疾患(発症から死亡までの期間は不詳)」と記載されていたことがありました。しかし、このケースでも、認定基準の対象疾病として扱われ、認定基準にそった判断がなされ、無事労災認定されました。
ただし、このようなケースでは、被災労働者が対象疾病を発症していたことについて、弁護士の意見書を労働基準監督署を提出することが重要です。
本件でも、①高血圧によって直ちに死亡することは稀であること、②高血圧に由来する重篤な症状が見られなかったこと、③最終的に対象疾病である心筋梗塞または心停止を発症した可能性が高いこと、④遺体には心筋梗塞などの心臓疾患に特有の外的症状が認められたこと等を説明したことが効果的だったのではないかと思います。