2019年6月3日より、名称を「四方法律事務所」から「大阪労災・労働法律事務所」に変更しました。

なぜ過労死は労災補償の対象となるのか?基本的な考え方

「過労死」は労災補償の対象

過労死が起きてしまった場合、労働基準監督署に労災認定されれば、ご遺族は労災保険を受給することができます。
脳・心臓疾患を発症したものの、一命を取り留めた場合には、労働者本人が受給できます。

しかし、一般的に、脳梗塞や心筋梗塞といった脳・心臓疾患は、生活習慣病として業務と関係無く発症することもあります。
このページでは、なぜ過労死は労災補償の対象とされているのかを解説します。

基本的な考え方

過労死については、厚生労働省の通達(脳血管疾患及び虚血性心疾患等(負傷に起因するものを除く。)の認定基準について)において、基本的な考え方が示されています。これに沿って説明をしていきます。

脳血管疾患及び虚血性心疾患等(負傷に起因するものを除く。以下「脳・心臓疾患」という。)は、その発症の基礎となる動脈硬化等による血管病変又は動脈瘤、心筋変性等の基礎的病態(以下「血管病変等」という。)が長い年月の生活の営みの中で形成され、それが徐々に進行し、増悪するといった自然経過をたどり発症に至るものとされている。
(引用元 脳血管疾患及び虚血性心疾患等(負傷に起因するものを除く。)の認定基準について 基発第1063号)

これによると、脳・心臓疾患は、基本的には、「労災」ではなく「私病」であるという考え方であることが分かります。
脳・心臓疾患は、「生活習慣病」という言葉で示されるように、喫煙・肥満・アルコール・遺伝・運動不足等の様々な要因により、加齢にしたがい、小さなリスクが段々と大きくなり、やがて一定の水準まで達したときに発症するものとされています。
このような例は、本人の素因や生活習慣が原因で発症している「私病」となります。
この場合、たとえ仕事中に脳・心臓疾患を発症したとしても、原因が個人の日常生活にあるため、労災とはなりません。

しかし、これは次のように続きます。

しかしながら、業務による明らかな過重負荷が加わることによって、血管病変等がその自然経過を超えて著しく増悪し、脳・心臓疾患が発症する場合があり、そのような経過をたどり発症した脳・心臓疾患は、その発症に当たって、業務が相対的に有力な原因であると判断し、業務に起因することの明らかな疾病として取り扱うものである。
(引用元 脳血管疾患及び虚血性心疾患等(負傷に起因するものを除く。)の認定基準について 基発第1063号)

働きすぎが健康に悪いということは広く知られています。
誰でも脳・心臓疾患を発症するリスクは抱えていますが、過重労働をおこなえば、そのリスクを跳ね上がります。
このように、業務によって本来の経過を超えて著しく病態が悪化し、脳・心臓疾患を発症してしまったと考えられる場合には、相対的に「業務」が発症の有力な原因であると判断し、労災補償の対象とすることが明記されています。

本来の経過を超えて発症をしてしまうというのは、次の図を見ると分かりやすいです。

発症に至るまでの概念図

出典:脳・心臓疾患の認定基準に関する専門検討会報告書

横軸が時間的経過で、右にいくほど時間が経過します。
縦軸が血管病変等の進行状態で、上にいくほど状態が悪化し、一番上のラインに到達すると発症していることを示します。

そして、左下から右上にかけて斜めに走る点線が、「自然経過」による血管病変の進行をあらわします。これは、時間的経過に応じて、緩やかに発症まで進んでいることが分かります。

「自然経過」の点線から、急激に発症の方向に向かって進んでいる線が3本あります(「イ」「ロ」「ハ」)。

イは、長期にわたって、長時間労働等の業務による負荷が労働者に加わることによって疲労が蓄積され、発症に至るパターン、
ロは、イにおける血管病変の進行に加え、発症に近接した時期の業務による急性の負荷を引き金として発症するパターン、
ハは、急性の過重負荷により急激に発症するパターンを示しています。

これらが、業務の負荷により、自然経過を超えて急激に脳・心臓疾患を発症してしまうパターンです。

これらのように、過重な業務の後に脳・心臓疾患を発症した場合、業務が原因と考えられ、労災補償の対象となります。

自然経過により発症した場合 → 労災補償の対象
業務により、自然経過を超えて著しく増悪し、発症した場合 → 労災補償の対象

1番重要なのは、「原因が業務であるかどうか」です。
発症したタイミングが仕事をしていないとき(休日や帰宅後)であっても、原因が業務であると考えられれば、それは労災補償の対象となります。