2019年6月3日より、名称を「四方法律事務所」から「大阪労災・労働法律事務所」に変更しました。

(過労死)高血圧・持病がある場合の労災・損害賠償請求への影響

長時間労働などの過重労働により、脳梗塞・心筋梗塞などの脳・心臓疾患を発症し、死に至ることを「過労死」といいます。

労働者が過重労働をしていた一方、もともと病気を患っていたり、高血圧や飲酒などの習慣があった場合、労災認定や損害賠償請求にどのような影響を与えるか解説します。

労災認定への影響

基礎疾患があった場合

労働者が、先天性心疾患等(高血圧性心疾患、心筋症、心筋炎等を含む)を抱えていた場合の取扱いについて、平成13年に改正される前の旧認定基準では次のように記載されています。

先天性心疾患等を有していても、その病態が安定しており、直ちに重篤な状態に至るとは考えられない場合であって、業務による明らかな過重負荷によって急激に著しく重篤な状態に至ったと認められる場合には、業務の発症との関連が認められる。

旧認定基準(平成7年2月1日基発第38号通達)

もともと心臓疾患を抱えていた場合でも、次の2つの条件を満たせば、業務により発症したものとして労災認定されるのです。

  1. 病態が安定していて、直ちに重篤な状態にはなるとは考えられない
  2. 業務による明らかな過重負荷によって急激に著しく重篤な状態に至った
一方、元々の病状が自然的な経過で悪化し発症に至った場合には、たとえ発症したのが仕事中であっても、「労災ではない」という判断になります。

なお、脳・心臓疾患の認定基準は平成13年に作り替えられており、新しい認定基準では上記のような考え方は明記されていませんが、労災認定実務要領では、引き続き上記のような取扱いをすることが示されています。

脳疾患については、旧認定基準においても現在の認定基準においても、特に上記のような考え方は示されておらず、認定基準の考え方は必ずしも明らかではありません。しかし、先天性能動静脈奇形という基礎疾患を有する労働者が、過重な業務の末に小脳出血を発症した事案について、業務と発症の因果関係を認め、会社の損害賠償責任を認めた判例(大阪高裁平成23年2月25日判決・天辻鋼球製作所事件)もあり、心臓疾患の場合と同様に考えてよいものと思われます。

高血圧・飲酒・喫煙などがあった場合

高血圧、飲酒、喫煙、高脂血症、肥満、糖尿病等は、脳・心臓疾患の発症リスクを高める要素(リスクファクター)となります。
しかし、もともと健康診断で高血圧と判断されていたり、飲酒・喫煙を好んでいた場合でも、直ちに「私病(=労災ではない)」と判断されるわけではありません。

厚労省の通達では、労働者がこうしたリスクファクターを有していた場合の取扱いについて、次のような考え方を示しています。

認定基準の要件に該当する事案については、明らかに業務以外の原因により発症したと認められる場合等の特段の事情がない限り、業務起因性が認められる
(「脳血管疾患及び虚血性心疾患等(負傷に起因するものを除く。)の認定基準の運用上の留意点等について」平成13年12月12日基労補発第31号)

認定基準を満たす過重労働をおこなっていれば、たとえリスクファクターを有していても、特段の事情がない限り、労災であると認められるのです。
実際に、弊所が労災申請したケースで、過労死した労働者に高血圧の傾向があったものの、無事労災認定されたことがあります。

支給額の減額調整などはない

労災保険の給付は、過労死(脳・心臓疾患)にかかわらず、「支給する」「支給しない」のどちらかの判断になります。
基礎疾患を抱えていたり、リスクファクターを有していた場合でも、支給額が減額調整されるなどのペナルティーはありません。

損害賠償請求への影響

労働基準監督署に労災認定されたケースであれば、会社に対する損害賠償請求も認められやすくなります。
労災認定されるということは、労働基準監督署が、業務と脳・心臓疾患の発症の間に相当因果関係があると判断しているということだからです。

ただし、裁判所と労基署は全く別の機関ですから、裁判所は絶対に労基署の判断に従わなければいけないわけではありません。
とはいえ、いったん過労死であると客観的に認められたものを覆すのは、それなりの理由があるときに限られるでしょう。

基礎疾患やリスクファクターがあった場合でも、労災認定された事案であれば、裁判所にも業務と発症の因果関係は認められやすいといえます。
ただし、損害賠償請求においては、「素因減額」「過失相殺」という考え方があります。
素因減額というのは、基礎疾患を有していたような場合、損害の発生(病気の発症)に労働者側の素因が多少影響しているのではないかということで、ある程度、損害賠償額を減額する考え方です。
また、過失相殺というのは、労働者が喫煙を好んでいた場合のように、損害の発生(病気の発症)について、労働者側にも何らかの落ち度があったときに、損害賠償額を減額する考え方です。

素因減額・過失相殺は、基礎疾患やリスクファクターを有していれば、必ずされるというわけではありません。
たとえば、基礎疾患・リスクファクターの程度が非常に軽く、一方で業務の過重性が非常に強かった場合には、損害賠償額の減額はされないか、減額があったとしても小さな割合にとどまります。