大阪弁護士会「分野別登録弁護士制度」に対する疑問-労働弁護士コラム

先日、一部メディアで、大阪弁護士会は、2019年4月から、「交通事故」「労働」「離婚」「遺言・相続」の4分野について、弁護士が特定の名簿に登録できる「分野別登録弁護士制度」を始める方向性であると報じられました。
しかし、本制度には多くの欠陥があり、相談者にとって利便性がないうえ、弁護士の専門性に対して信頼がゆらぐ可能性すらあると感じています。

以下、制度の問題点について言及します。

これまでの経緯(前提)

弁護士には専門分野認定制度は存在しない

弁護士には、医師とは異なり、正式な専門分野認定制度は存在しません。

医師であれば、一定の要件を充たせば(試験への合格を含む相応の要件が課せられます)「内科専門」「外科専門」のような専門分野の表示をすることができます。
一方、弁護士は、実務的には各々の専門分野(労働、建築紛争、医療過誤など)がありますが、特定の機関がこれらの専門性を認定するような制度は設けられていません。

専門分野の表示はできない

日弁連は、「何を基準として専門分野と認めるのかその判定は困難」であることを理由に、専門分野の表示は「控えるのが望ましい」として広告規制をおこなってきました(「業務広告に関する指針」第3・12)。
そのため、弁護士は、どれだけ経験が豊富であり、知識の専門性が高くても「○○専門」等と表示することは躊躇せざるをえません。
一方、相談者としては、当然、自身が抱えている問題の「専門」の弁護士に依頼したいわけですから、そのニーズに応えられないという重大な問題がありました。

…というのは半分くらいは建前の話であり、事実上は、ネットの宣伝広告を通して多くの弁護士が各々の「専門分野」を謳っています。
それらの広告は、すべて弁護士の自己申告にすぎないため、その分野についての弁護士の専門性は何ら担保されていないのですが、そのことについては、また別の機会に論じたいと思います。

分野別登録弁護士制度は、こうした弁護士の広告規制と相談者のニーズとのズレに一石を投じるものであるとは言えるでしょう。
しかし、残念ながら、いま実施されようとされている制度は、そうしたズレを解消するどころか、弁護士会自らがそうしたズレを大きくしてしまうものではないかと危惧するのです。

分野別登録弁護士制度の概要

  • 弁護士が一定の要件を充たすと、「交通事故」「労働」「離婚」「遺言・相続」の4分野について、各分野の名簿に氏名を登録できる
  • 名簿の登録情報は大阪弁護士会のホームページに掲載される
  • 利用者(相談者)はそれを閲覧して弁護士を選ぶことができる

というのが本制度の概要です。

制度の問題点

1.ハードルが非常に低く専門性が担保されない

名簿の登録要件は、弁護士登録期間3年以上、保険金額1億円以上の弁護士賠償責任保険に加入していることに加え、①研修要件②実務要件を満たすことが求められます。

登録分野によって多少異なりますが、「労働」の場合、次の2点が必要とされています。

  1. 指定研修を登録申請前3年以内に3講座以上を受講すること(研修要件)
  2. 登録申請前3年以内に、労働事件の当事者の代理人として実務を扱い、終了した事件が3件以上あること(実務要件)

たった3講座の履修、3件の実務経験で得られるものは多くありません。
労働問題といっても、労災、残業代、解雇をはじめ様々な問題があるうえ、その解決手段(手続き)も複数あり、労働者側・使用者側の違い、相談者の希望の多様さなど、様々な経験を積まなければ専門性はまったく担保されません。

前述の登録要件は、ほとんどの弁護士が容易に満たせるものです。
本来、相談者が労働弁護士に求めている専門性というのは、労働事件を中心に扱っていて他の弁護士に比べて特に経験が豊富といえるもののはずです。
本制度では、相談者のニーズに全く応えることができません。

2.弁護士会は専門性を保証しない

これまでも、大阪弁護士会のホームページでは、「重点取扱分野」で弁護士を検索することができましたが、これはあくまで弁護士の自己申告に基づくものでした。
一方、今回の制度は「一定の要件」を充たした弁護士のみが登録できる点で異なります。

本来であれば、弁護士会が弁護士の専門性にお墨付きを与える…というのが最大の特徴のはずですが、大阪弁護士会の会報である「月刊大阪弁護士会2019年1月号」では次のように説明されています。

「分野別登録弁護士制度は、当会が登録弁護士の専門性を認定するものでも保証するものでもない」
「当会が法的責任を負わない旨を規定する」「当会が責任を負わない旨の告知に同意した利用者のみが分野別登録弁護士名簿を閲覧することができるシステムとする」

月刊大阪弁護士会2019年1月号

結局、本制度によっても、弁護士の専門性は客観的には認められていないのです。
この点は、制度名称が初期案の「専門分野登録制度」から「専門」を削除したことからも浮き彫りとなっています。
登録要件のハードルが非常に低いことも相まって、これでは自己申告による「重点取扱分野」の表示と実質的に違いは無いとさえいえます。
これでは新しい制度を創設する意味はなく、一体誰のための、何のための制度なのか分かりません。

一番問題なのは、こうした問題点を孕んだ分野別登録弁護士制度が、利用者(相談者)の期待を裏切る結果につながるのではないかという点です。
弁護士会がいくら「専門性は保証しない」という建前にしていても、利用者(相談者)としては、登録名簿に掲載されている弁護士に専門性を期待するのは当然の流れです。
専門性が全く担保されていないことに気がつく利用者は、ほんの一握りでしょう。

名簿を信頼して「専門」の弁護士を選んだつもりが、期待していた専門性は全くなかった…という事態が数多く起きるのは目にみえています。
弁護士会がこのような不誠実な制度をつくっていれば、いずれ弁護士の専門性は市民から信用されなくなるのではと危惧しています。

2019.8.29追記-実際に名簿を利用してみて

本制度は、2019年7月25日に運用が開始され、大阪弁護士会の分野別登録弁護士名簿検索から名簿が閲覧できるようになりました。開始間もないこともあり、現時点で登録している弁護士は115人と決して多くありません。

公開されたHPを見て、感じることがいくつかありました。

まず気になったのは、検索をする際、弁護士経験年数で絞り込みできるのですが、その項目は「20年未満」「20年以上30年未満」「30年以上」で設定されていることです。

弁護士に一定の経験年数を求める方は多いと思いますが、果たして「20年」という非常に長いキャリアで区切る必要があるのか疑問です。

5年または10年を一区切りとするのが妥当ではないでしょうか。

良かった点は、検索結果で、各弁護士が登録している分野が全て表示されることです。

たくさんの分野に登録している弁護士は、氏名の横に、「交通事故、離婚、遺言・相続」などと表示され、必ずしも1つの分野を重点的に取り扱っているわけではないということが一目瞭然となります。

制度上、様々な問題点を抱えたままではありますが、相談者の方のニーズには応えたいので、私も労働分野について申請をしました。

既に承認されており、9月から掲載される予定です。

弁護士 四方久寛(大阪弁護士会所属)