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「弁護士に依頼する」ということ-労働弁護士コラム

「弁護士に依頼をする」と一口にいっても、それが意味するところは、あまり知られていないと思います。

弁護士に依頼をするというのは、法律的には「委任契約」という契約を締結することなのですが、これによって、依頼者は弁護士に大きな権限を委任することになります。
(※弁護士への依頼の形態は様々なものがありますが、今回のコラムでは、労働問題(労働者側)の典型的ケースである「相手方に何かを請求する交渉や訴訟を依頼する場合」を前提として説明していきます。)

なお、委任契約の内容を記した「委任契約書」の解説ページもあるので、興味のある方はご覧ください。

弁護士との「委任契約」とは

「委任契約」を締結すると、 特定の問題解決に関して、特定の権限を弁護士にゆだねることになります。

たとえば、残業代請求をしたいと考えているAさんが、弁護士と 「○○会社に対する未払割増賃金請求(注:残業代請求のこと)の交渉、訴訟」 を内容として委任契約を締結すると、 弁護士がAさんの代わりに「代理人」として 残業代請求に関して会社との交渉をおこなったり、 訴訟をおこなうことができます。

一言でいうと、手続きを弁護士に「お任せ」できるようになるのです。

この「委任契約」を結んでいない状態であれば、 Aさんの抱えている未払い残業代の問題はAさんと会社の二者間のものであって、 それ以外の人は言わば第三者、無関係の他人です。

しかし、「代理人」となった弁護士であれば「本人の立場」で そこに割って入っていって、会社との交渉等ができるようになるので、 非常に特殊、強力な権限です。

一歩間違えるとブラックボックス

委任契約によって解決の手続きを弁護士に「お任せ」できるのは 依頼者にとって便利な反面、少し怖いところもあります。

相手方と弁護士が直接連絡をとるので、 依頼者は、自身の抱える問題に関して現在どのような交渉がおこなわれているのか、 全く分からなくなってしまうのです。

このように、ブラックボックスになることを防ぐために、 弁護士は依頼者に 「今はこのような状況です」 「相手方はこう主張しています」 などの報告をおこない、また必要に応じて 方針について依頼者の意向を確認します。

進捗状況の連絡はどのくらい?

どのくらいの頻度で、どこまで詳細に進捗状況の連絡をするかは 弁護士によって、また事案の性質に応じて特色があります。

また、依頼者の意向としても 連絡はマメにほしいという方もいれば、 中には、もう弁護士に任せたのだから連絡を受けるのは面倒という方もいます。

私の場合では、扱っている労働問題の性質上、 状況連絡が特に重要なケースが多いので (解雇や労災の案件は依頼者の生活に直結するものですし その他労働問題についても、相手方が労働の実態に関する主張をすれば その真偽について依頼者への確認が欠かせません)、 何か進展があればご報告をし、 また、相手方との主張書面のやりとりはコピーを依頼者へお送りするなどしています。

弁護士は、依頼者の味方にならなければいけない

さて、強力な権限を任された以上、 弁護士は絶対に依頼者の味方となることが求められます。
つまり、依頼者の利益を最優先に考えて行動しなければいけません。

誤解されやすい点ですが、 「依頼者の利益を最優先させる」というのは 「何でも依頼者から言われるがままに行動する」こととは違います。

たとえば、法的には300万円を請求することが妥当なケースで、 依頼者が 「どうしても気が済まないので1000万円請求してほしい」 と要望した場合、 1000万円の請求にできる根拠があれば良いのですが、 それが無ければ、過剰な請求となるのでできません。

これには弁護士側の事情もあるのですが (弁護士倫理という、弁護士が守るべきルールに抵触するため)、 それ以上に本人の利益を図る目的があります。

過剰な請求をすれば、相手との関係がさらに悪化し 問題解決がかえって難しくなる可能性がありますし、 訴訟になれば裁判官の心証を悪くしかねません。

「依頼者から言われるがままに行動する」のが、 いつも依頼者に良い結果をもたらすとは限らないのです。

もちろん、依頼者の希望を尊重することは欠かせませんが、 それが可能なのか、また本当にそれが良い結果をもたらすのかは 法律の専門家として慎重に判断し、依頼者に必要な情報を提供し、 依頼者と十分に話し合ったうえで方針を決定することが 弁護士には求められます。

弁護士 四方久寛(大阪弁護士会所属)