私が労働問題に取り組む中で、法律相談を受けることが最も多い業種は、運送業ではないかと思います。
運送業では、長時間労働や作業安全の軽視が蔓延していて、残業代未払い、過労死・過労うつ、労災事故などの問題が非常に多いのです。
とりわけ残業代の不払いは、運送業において広く見られる問題ではないかと思います。
問題の背景
貨物輸送の分野では、ネット通販事業の拡大を背景に宅配輸送の貨物量の拡大傾向が続いており、短時間で多数の荷物を輸送しなければならなくなっています。
また、旅客輸送の分野でも、一時ほどではないにせよ外国人観光客の増加による需要の超過が続いています。他方で、運転手の高齢化が進み、人手不足は深刻で、個々の運転手にその負担がのしかかっているのが現状です。
それにもかかわらず、会社は、きちんと残業代を支払っているとは言い難い状況にあります。
運送業の特徴
ずさんな労働時間の管理
運送業の会社で目立つのは、労働時間がきちんと管理されていないケースです。
陸運関係法規の規制によって、出庫時、入庫時の点呼の記録や、乗務記録(いわゆるタコグラフ)は残されているのですが、点呼のタイミングが曖昧で、出庫時点呼の前に車両点検をさせられていたり、入庫時点呼の後に洗車をさせられていたりして、その時間について給与が支給されていないケースが目立ちます。
しかし、車両点検や洗車などの業務をおこなっている時間も労働時間であることは言うまでもありません。
待機時間の労働時間該当性
運転手の方の残業代請求の裁判では、会社は、必ずと言ってよいほど、乗務記録上、車両が停止している時間帯(たとえば、乗客が観光している間の観光バス運転手の待機時間)は休憩時間だという主張をしてきます。
しかし、車両が停止している時間であっても、車両を離れて自由に休憩できる状況になければ、運転手が業務から解放されているということはできず、その時間は労働時間と評価されるべきものです。
不明瞭な給与体系
運送業では、給与が基本給、運行手当、早朝手当、家族手当など様々な名目に細かく分けて支給されていることが多いのですが、会社が、その一部を割増賃金の基礎となる賃金に含めず、逆に残業代の趣旨で支給していると主張したり、歩合給についての割増賃金の計算方法によって計算したり(歩合給についての割増賃金の計算方法によれば残業代の額は大幅に低くなります)ということ非常に多く見られます。
しかし、家族手当や住居手当など一部の手当を除く諸手当は、原則として割増賃金の基礎となる賃金に含めて計算しなければならず、諸手当の一部を残業代の趣旨で支給していると主張したり、歩合給についての割増賃金の計算方法によって計算するには、それらの手当に残業代や歩合給としての実質が伴っていなければなりません。
以上のように、運送業では、会社は、きちんと残業代を支払っているとは言い難い状況にありますので、運転手の皆さんは、きちんと残業代を支払ってもらっているかどうか、弁護士に相談してみてはいかがでしょうか。