建設業は、サービス残業が多い業種の一つです。
問題の背景
建設業はいわゆる3K職場の典型で労働者から敬遠されがちであるうえ、近年では少子高齢化に伴う人手不足、東日本大震災からの復興や東京オリンピックに伴う建設需要の増大が加わり、個々の労働者の負担の増加と労働時間の長時間化が顕著な業界です。
下請け、孫請け業者に雇用されている現場の作業員はもちろん、現場を監督する元請け業者の正社員に至るまで、長時間労働に従事しています。
しかし、その一方で、建設工事は多重請負構造によって進められており、その多重請負構造の下流にいけばいくほど請負代金が圧縮されてしまうため、人件費が削られ、残業代がきちんと支払われない事態が常態化しています。
建設業の特徴
労働時間の日々の記録が大切
現場の作業員の場合、残業代がきちんと支払われていないばかりか、そもそも労働時間が管理されていないケースが非常に多くなっています。このため、後から残業代を請求しようにも、労働時間の立証が容易ではない場合も少なくありません。
それだけに、タイムカードや出勤簿などによって労働時間が管理されていない場合には、作業員自身が、日々、始業・終業時刻、作業の場所・内容をメモしておくことが必要です。
ただ、仮にそういったメモがない場合でも、作業日報、会社が施主や元請業者に提出した作業報告書、KY活動実施の記録、工事現場に赴く社用車のETC利用記録等から労働時間を推定することができる可能性もあるので、あきらめずに弁護士に相談してみるとよいでしょう。
6日目の残業代の支払いに注意
1日に8時間以上、週に6日間勤務しても、週に40時間を超えて勤務した6日目の労働について残業代が支払われていないというケースも目立ちます。
この週6日目の労働については、具体的な勤務時間帯が分からなくても、勤務していたことが立証できれば、少なくとも所定労働時間分の残業代の支払いを請求できる可能性が高いでしょう。
現場までの往復も、労働時間になり得る
作業員全員が会社の事務所等に集合して社用車で工事現場に赴き、作業を行った後、全員で会社の事務所等まで戻ってきて解散する場合でも、会社が、作業時間のみを労働時間と考えて、残業代を支給しないケースも目立ちます。
確かに、工事現場までの往復の時間は、必ず労働時間に含まれるとは限りません。
しかし、工事現場に向けて出発する前に会社の事務所等で作業に必要な機材を積み込み、工事現場から戻ってきた後に会社の事務所等で機材の後片付けをしたり報告書等の作成を行ったりしているような場合や、工事現場に赴く車内で作業の打合せを行っているような場合には、会社の事務所等で集合した時刻から解散した時刻までが労働時間であると考えられ、その時間を含めた1日の労働時間が8時間を超えている場合には、会社に対して残業代を請求することができます。
現場監督者の場合
現場監督者の場合でも、労働時間の管理がなされておらず、残業代がきちんと支払われていない場合が少なくありません。
ただ、現場監督者の場合、通常、工事現場に赴いて作業を監督する前後に、社内で施工計画書や設計図書などの書類を作成する業務に従事しています。そのため、書類の作成などのために使用したパソコンのログ、会社事務所のセキュリティの記録、工事現場に赴くのに使用した社用車の記録などから労働時間が推定できる可能性が高いでしょう。