レストランや居酒屋などの飲食業の運営会社が、従業員に対してきちんと残業代を支払おうとしない例が多く存在します。
問題の背景
レストラン、居酒屋などの飲食業では、開店前の店の掃除、食材の仕入れ、仕込みから閉店後の後片付けまで長時間にわたって様々な業務がおこなわれている一方、店のスタッフをアルバイトでまかなうことが多くなっています。
このため、調理をおこなう正社員や、店の運営にあたる正社員、特に店長に業務の負担が集中し、長時間労働を余儀なくされています。
飲食業の特徴
休憩時間を長く主張する
残業代請求の訴訟で、飲食業を営む会社が主張しがちなのが「従業員が出勤してから退勤するまでの間に、必ずしも労働時間とは言えない時間がある(その時間については給与を支払う必要はない)」というものです。
具体的には次のような主張です。
- 開店前、閉店後の業務にはそれほど時間がかからない。
- 店の営業時間中も、客が集中する時間帯を除いては必ずしもずっと業務に従事しているとは言えない。
- 店の昼の営業時間と夜の営業時間の間は休憩時間であり、業務に従事していない。
しかし、開店前には、ホールスタッフは店の清掃を終わらせておかなければなりませんし、厨房スタッフは食材の調達や仕込みをしなければなりませんので、開店前の業務量はかなりのもので、相当な時間がかかります。
店の営業時間中は、客が少ない時間帯であっても、いつ客が来店するか分からない状況ですから、従業員は持ち場を離れることは許されず、業務から解放された状態にあるとは言えません。
昼の営業時間と夜の営業時間の間が休憩時間とされている店でも、その時間に経理処理や、追加の食材調達、仕込みをしなければならない場合もあり、必ずしも休憩がとれる状態でないことが多いと思います。
閉店後も、後片付けや経理処理、翌日の仕込みの一部などの業務があって、ある程度の時間がかかることは避けられません。
これらの反論を、実際のケースに当てはめながら具体的におこなうことで、上記のような会社の主張が誤りであることを、裁判官に理解してもらうことが大切です。
「名ばかり管理職」の扱い
店長については、会社は、必ずと言ってよいほど、「管理監督者」(労働基準法第41条2号)にあたると主張して残業代を支払わないことを正当化しようとします。しかし、飲食店の一店長が、残業代を支払わなくてもよい「管理監督者」にあたることは稀でしょう(詳しくは名ばかり管理職の問題の問題のページをご覧ください)。
労働時間の立証の難しさ
問題は、労働時間の立証です。
従業員の労働時間がきちんと管理されていてタイムカードがあったり、店のセキュリティ記録が残っている場合には、そこから労働時間を算定することが可能です。
しかし、会社がそもそも残業代を支払うつもりがなく、従業員の労働時間を管理していないために、労働時間を立証する証拠が乏しいことが少なくありません。
そのような場合には、店の営業時間をベースとして、その前後に、どのような業務があり、それにどれくらいの時間がかかるのかを詳細に明らかにしていく必要があります。店の営業のために必要不可欠な業務であれば、たとえ正確な労働時間の証拠がなくても、必ずしもあきらめる必要はありません。