事案の概要
※プライバシー保護の観点から、事案の本質を損ねない範囲で変更を加えています。
AさんとBさんは、X会社工場で、連日長時間労働に従事していました。1日の残業時間は、数時間、長いときには7~8時間にも及びましたが、X会社から残業代は全く支払われていませんでした。
そこで、AさんとBさんは、X会社を退職後、一緒に弁護士に依頼して残業代を請求することにしました。
残業代の請求
AさんとBさんは、毎日、出社時刻・退社時刻を業務内容と共に手帳に記入していました。そこで、弁護士は手帳の記載に基づいて残業代を計算し、内容証明郵便でX会社へ支払を請求しました。
弁護士間の任意交渉による解決
残業代の請求後、労働者側弁護士はX会社代理人弁護士と交渉をおこない、労働時間に関する最も基礎的な資料であるタイムカードを任意に開示してもらいました。すると、タイムカードの記載は、Aさん・Bさんのメモとほぼ同一の内容であり、請求をより裏付けることができるものでした。
そして、会社側が任意交渉で解決する姿勢を見せたため、会社側と労働者側、それぞれがタイムカードに基づいて未払い残業代の額を算出し、開示しあったところ、会社側の計算結果は、労働者側の計算結果の3分の1にも満たない額でした。
その要因は、会社側の計算に単純なミスがあったほか、①会社側がAさんとBさんが残業中に度々仮眠をとっていたと主張し、残業時間から長い休憩時間を差し引いていたこと、②支給されていた手当の性質について、労働者側とは異なる見解を示し、残業代が少なくなる扱いにしていたことが挙げられます。
A・Bさんは、特に解決を急いでいなかったことから、任意交渉での解決の水準が低ければ、裁判所の手続きを利用することも視野に入れながら交渉を続けたところ、会社側から、労働者側の計算に近い内容の和解案を提案されました。
和解内容については、労働者側が譲歩する部分があったものの、労働者側の計算結果との隔たりは小さく、A・Bさんが十分納得できる水準であったことから、最終的に、和解に至ることとなりました。
四方弁護士からのコメント
この事例は、任意交渉のみで解決でき、またタイムカードによる計算で和解をしていることから、残業代請求の中ではシンプルな事案といえます。
とはいえ、このケースのように、タイムカードのような確実な証拠があれば即座に解決できるというわけではなく、ある程度、見解の対立が生じることがほとんどです。
任意交渉で終わらせるのか、労働審判や訴訟などを利用するのかは、状況を見て、依頼者の方と相談をしながら決めるようにしています。