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残業代請求の解決事例(メールの送信時刻を証拠に解決した事例)

事案の概要


※プライバシー保護の観点から、事案の本質を損ねない範囲で変更を加えています。

Aさんは、B会社に雇用され、工場で製造業務に従事していました。
Aさんは、1日に3時間前後の残業をするほか、しばしば休日出勤もしていましたが、残業代はほとんど支給されていませんでした。

工場では、適切な労働時間管理がなされておらず、タイムカードは存在しませんでした。
形式的には「残業をおこなう際は、超勤申請用紙を記入して上司に提出すること」とされていましたが、実際には、この超勤申請はおこなわないよう指導されており、複数の作業員が無申請のままサービス残業に従事していました。

残業代の請求

残業代請求をおこなうにあたり、まず問題となるのは労働時間の立証です。
Aさんは、タイムカードもなければ、超勤申請もおこなっていなかったため、B会社にはAさんの労働時間を示せる資料が存在しませんでした。

しかし、Aさんは、業務終了後、帰宅前に毎日、家族へ「今から帰ります」というメールを送信していました。
さらに、Aさんは通勤に自家用車を用いて高速道路を利用しており、この記録が一部残っていました。この利用記録には、料金所名と通過時刻が記載されますが、そこから逆算した退勤時刻と、家族宛のメールの送信時刻は、ほぼ一致するものでした。

このため、家族への「今から帰ります」というメールの送信時刻を退勤時刻とし、残業代請求をおこないました。

任意交渉

まずは内容証明郵便で会社へ残業代請求し、任意交渉での解決を探りました。
会社は、「長時間の残業は存在しない」と主張し、請求額よりも大幅に少ない150万円での解決を打診してきました。

こちらには労働時間を証明できる資料(メール、高速道路利用記録)が存在すること、Aさん自身もそのような低額の和解には納得できなかったことから、労働審判での解決を探ることとしました。

労働審判

労働審判では、上記のメールや高速道路利用記録を証拠資料として提出しました。
会社側からは、「Aさんは業務終了後に私用で工場に居残っていたのであり、メール等の資料はAさんの労働時間を立証できるものではない」と反論がありました。

しかし、裁判官や労働審判員らには、これらは十分Aさんの労働時間を証明する資料となるという感覚をもってもらえました。
B会社の財政状況が厳しかったことことと、早期解決の観点から、請求額よりは多少譲歩することとなりましたが、最終的に400万円で和解することができました。

弁護士コメント

本来、会社はタイムカード等で労働者の労働時間を管理しなければいけませんが、B会社のように、きちんと管理していない会社は多いものです。
「残業するときには各自が残業申請する」というルールを形式的に設けながら、実際には申請を禁止する(あるいは申請時間を「月○○時間まで」と制限する)というのも、よく見られる手口です。

タイムカード・超勤申請記録が存在しなくても、他の証拠(PCログ、セキュリティの記録など)によって労働時間が立証できれば良いのですが、製造業やサービス業は、比較的証拠が残りにくい業種といえます。

Aさんのケースでは、家族にあてた「今から帰ります」というメールが重要な資料となりました。
さらに、今回の高速道路の利用明細のように、主張の信用性を補強する証拠資料があれば、さらにその信用性は高まります。
(逆にいうと、いくらメールが存在しても、その他の証拠と矛盾するようなものであれば、信用性は低下してしまうので、正確な記録を残すことが重要です)
会社がきちんと労働時間を管理してくれない場合には、労働者自身が、その記録を積極的に残すことが大切です。