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IT・ゲーム業界の残業代不払いの特徴

IT業界のシステムエンジニア、プログラマーや、コンピュータ・ゲーム製作業界のクリエイター、プログラマーは、残業代不払いが多い職種の一つです。

問題の背景

IT業界のシステムエンジニア、プログラマーの場合、顧客の事業所に出向いてシステムの整備を行う場合と、自社の社内でシステム開発にあたる場合があります。このうち、顧客の事業所内で行うシステムの整備の場合、技術者は、顧客の要望に従って発生したトラブルに即応したり、顧客の設定する期限に間に合わせるように作業を行ったりしなければならないため、残業を余儀なくされます。

また、コンピューター・ゲーム製作業界のクリエイター、プログラマーの場合、1つのゲームを構成する膨大な量の画像やプログラムを一から作り上げていかなければならいため、そもそも作業量が非常に多くなっています。
特に、納期が近づいてくると、作業の遅れを取り戻したり、ゲームが完成に近づいた段階で新たに発覚するバグの修正したりしなければならないため、作業が集中し、連日、深夜にまで及ぶ残業に従事せざるを得ないのが実態のようです。

このように、IT業界やゲーム製作業界では、長時間の残業が発生していますが、必ずしも適正に残業代が支払われているとは言えない状況にあります。

IT・ゲーム業界の特徴

裁量労働制の悪用

IT・ゲーム業界で最も特徴的なのが、専門業務型裁量労働制を悪用した残業代不払いの手法です。

IT業界のシステムエンジニア、プログラマーや、コンピュータ・ゲーム製作業界のクリエイター、プログラマーの業務が、「情報処理システムの分析又は設計の業務」や「ゲーム用ソフトウェアの創作の業務」にあたるとして、専門業務型裁量労働制を採用し、その業務に従事する労働者が1日に何時間労働したとしても、労使協定で定めた一定の時間しか労働していないとみなすことができるようにし、残業代の支払いを免れようとするのです。

しかし、専門業務型裁量労働制を採用するには、その業務に従事する労働者が1日に労働したとみなすことができる労働時間数などについて、労働者の過半数を代表する者との間で書面による労使協定を結ばなければなりません。

会社が専門業務型裁量労働制を採用していると主張していても、実はこの協定が結ばれていなかったり、協定が結ばれているかのような体裁が整えられていても、協定を結んだ労働者の過半数を代表する者の選任が適法に行われていなかったりする場合があり、そのような場合には、専門業務型裁量労働制の適用は認められません。

また、専門業務型裁量労働制の対象となる業務にあたるかどうかは、厳格に判断されなければなりません。たとえば、「情報処理システムの分析又は設計の業務」はあくまでシステム全体の設計や必要な機種・ソフトウェアの選定等を行う業務であって、単なるプログラムの設計や作成を行うプログラマーは含まれません。

さらに、専門業務型裁量労働制が適法に採用されている場合であっても、労使協定で定められた1日のみなし労働時間が8時間を超えている場合には、その部分に対する残業代は支払われなければなりませんし、休日割増賃金や深夜割増賃金も通常どおり支払われなければなりません。
(専門業務型裁量労働制については裁量労働制の悪用のページもご参照ください)。

心身を崩すほどの長時間労働

上記の制度の悪用のほか、単純にサービス残業を押しつけるものや、固定残業代を悪用したものもありますが、とにかく、極めて長時間のサービス残業に従事する例が散見されます。
普段、法律相談をお受けしている私の印象では、これらの業界の労働者の方には、特にまじめで、おとなしい方が多く、会社の違法行為にじっと耐えておられる方が多いように思います。

しかし、残業代を支払ってもらうことは労働者の権利ですし、会社の違法行為に異議を申し立てなければ、会社はそれが当たり前だと思うようになり、職場環境はますます悪化していきます。特に、働きすぎによって心身を崩す(過労うつ、過労死、過労自殺)例が目立つ業界でもあります。

ぜひ、転職の際に権利を行使したり、勇気をもって会社の違法行為に異議を申し立てたりすることをご検討ください。