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労災の損害賠償請求

損害賠償請求について

「損害賠償請求」という言葉は、弁護士にとっては身近ですが、一般の方にとっては、自分とは関係がないという印象が強いかもしれません。

損害賠償請求とは、言い換えれば、「誰かが、誰かに対して被害を与えてしまったときに、被害者は法律(=社会で決めたルール)に従って、その被害を償ってもらうよう請求できる」ということで、何らかの被害に遭えば、誰もがおこなう可能性のあることです。

労災の場合には、会社が過失(安全配慮義務違反)によって労働者に被害を与えてしまったのであれば、労働者はその被害(損害)について、会社に賠償を求めることができます。

「損害」とは何か

それでは、労災の場合、労働者が会社に賠償を求めることができる「損害」とは何でしょうか。
労災に遭われた方としては、とにかく健康な状態に戻して欲しいというのが率直な気持ちかもしれませんが、実際には、どうしても金銭的な賠償が中心となります。

金銭的な賠償のうち、一般的にも知られているのは、精神的苦痛に対する慰謝料です。これは、怪我・病気による辛い思いや、生活上の不自由などのストレスに対するものです。

また、本来であれば得られたのに、得られなくなった収入(=逸失利益)も賠償の対象となります。特に、後遺障害が残ってしまった場合には、長期にわたって「働きづらさ」を抱えることになりますが、その分も逸失利益として請求できることになります。

そのほか、ご事情に応じて、様々な請求をすることが考えられます。代表的なものは、次のとおりです。

  • ケガのため仕事を休まなければならなかった期間の賃金(休業損害)に相当する損害の賠償
  • 後遺障害のため得られなくなった将来の賃金に相当する損害の賠償
  • ケガのために入通院治療をしなければならなかったことに対する慰謝料
  • 後遺障害を負ったことに対する慰謝料
  • 将来の介護費用(重い障害を負った場合)  など

金銭以外の請求について

会社の落ち度が大きい場合や、態度が悪質な場合には、金銭的な解決だけでは納得できないという方もいらっしゃると思います。
日本の法律では、判決によって強制的に謝罪をさせることはできませんが、和解において謝罪の意を示してもらうことはあります。また、ケースとしては稀ですが、特に悪質な場合には、刑事手続きによる処罰を促すことも考えられます。

損害賠償請求のご相談から解決までの流れ

弁護士に損害賠償請求をご依頼いただいた場合には、次のような流れで手続きをおこないます。

①資料収集・打ち合わせ(事故の発生経緯の確認)

労災がどのような経緯・状況で発生したのかが非常に重要となるため、まずは、労基署の資料をはじめ様々な資料を収集するほか、詳しい事情をお聞きします。

時には、内容が専門技術に関することに及び、依頼者の方にとっても弁護士に説明するのが難しい部分もあると思いますが、イラストや模型を利用するなど、なるべく話がしやすくなるよう心掛けています。

②任意交渉

弁護士から会社へ、損害賠償を請求する通知をお送りします。請求の内容を伝えるほか、弁護士が代理人に就任したこと、以後の連絡は、依頼者本人ではなく、弁護士にしてほしいことなどを伝えます。

委任連絡

事案によっては、任意交渉のみで解決(和解)できることもありますが、労災の発生経緯について見解が対立しているなど、任意交渉での解決が難しい場合には、裁判所の手続きを利用します。

③裁判所の手続きによる解決

民事訴訟あるいは労働審判の手続きを利用して、解決を図ります。
複雑な経過をたどって労災が発生している場合には、一般的な民事訴訟を利用しますが、事案によっては早期解決を見込める労働審判を利用することも考えられます。

労働審判では、労働者ご本人が参加する必要がありますが、原則として3回までの審理で、3か月程度で終了するほか、事故状況について身振り手振りを交えて裁判官に直接説明できるため、裁判官により具体的なイメージを抱いてもらいやすいというメリットがあります。

一方、民事訴訟では、判決までに1~2年程度要するものの、丁寧な事実認定を求めることができ、尋問のとき以外はご本人が裁判所に出席する必要はありません。

どちらを利用するかは、依頼者の方のご希望をお聞きしながら、柔軟に対応しています。

時効について

会社への損害賠償請求には、時効があります。

不法行為や安全配慮義務違反に基づく損害賠償請求には、事故日または事故によるけがの症状固定日(※1)から5年(※2)の時効があります。

(※1)時効の起算点(どの時点から時効期間のカウントが始まるか)は、事故日だと考える説や、事故によるけがの症状が固定した日だと考える説があり、事情によってはさらにこれらと異なる考えも成り立ち得ますので、損害賠償請求をお考えの方は、なるべく早くご相談ください。

(※2)2020年4月1日に改正民法が施行される以前は、不法行為に基づく損害賠償請求の時効は3年、安全配慮義務違反に基づく損害賠償請求の時効は10年とされていました。このため、労災事故の発生が2020年3月31日以前の場合、不法行為に基づく損害賠償請求の時効は3年、安全配慮義務違反に基づく損害賠償請求の時効は10年となります。これに対し、労災事故の発生が2020年4月1日以降の場合、不法行為に基づく損害賠償請求の時効は5年となりますが、安全配慮義務違反に基づく損害賠償請求の時効も5年になるとは限りません。安全配慮義務は雇用契約上の義務であり、雇用契約が2020年3月31日までに成立していた場合には、安全配慮義務違反に基づく損害賠償請求の時効は、義務が成立した当時の民法の規定に従って10年となるからです。この点は、※1の点とも関連して、事情によってさまざまな法律解釈が成り立ち得るため、損害賠償請求をお考えの方は、なるべく早くにご相談ください。

Q&A

Q労災で後遺障害を負った場合、損害賠償請求額はどの程度になりますか?
A労災事故の内容(会社の責任の度合い)、後遺障害の程度、収入の額や年齢などにより左右されるため、詳しくご相談をお聞きしなければ判断することはできません。 法律相談時には、これらを正確に判断できる資料が揃っていないことも多いですが、お聞きした情報に基づいて、弁護士から可能な範囲で見通しや概算額をお伝えするようにしています。
Q雇用主から、解決金の支払いを提案されているのですが…
A本来の賠償金として受け取るべき額よりも低い額を提案されている可能性もあります。 一度弁護士に相談して、提案された解決金額が十分な水準であるかどうか、確認されることをお勧めします。
Q労災保険の受給を受けた場合でも、損害賠償請求することはできますか?
A労災保険を受給したからといって、損害賠償請求ができなくなることはありません。労災保険は労働者の治療費や最低限の収入を補償するためのものであって、慰謝料などは含まれていません。(労災と損害賠償請求の関係
Q手元に何も証拠資料が無いのですが…
A個人情報開示手続きや、弁護士特有の手続きによって様々な資料を取り寄せることができますから、一度ご相談ください。

労災事故の損害賠償解決事例

①転倒による労災事故(労働者の過失の程度が争点となったケース)

②積み荷の落下によって下敷きとなった労災事故

③バンドソーによって指を切断した労災事故