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労働組合の活用

問題解決には労働者の団結が不可欠なこともある

労働組合を結成することにはどのような意味があるのでしょうか。
労働問題の解決のためには、弁護士に依頼をしたり、労働基準監督署に申告をすればよいのであって、労働組合は必要ないと思われる方もいるかもしれませんが、そんなことはありません。

職場の労働者が団結をすることは、個々の労働者の問題解決にとっても、職場全体の環境の改善にとっても、非常に重要なのです。

たとえば、ある労働者が合理的な理由もないのに解雇されてしまったとしましょう。その労働者が解雇に納得できない場合、労働者は不当解雇に対して従業員としての地位の確認を求めて交渉し、場合によっては訴訟を提起することになります。

それに対して、会社が、その労働者の問題点をいろいろと記載した上司や同僚たちの陳述書を裁判所に提出することがよくあります。一方、解雇された労働者に味方してくれる会社関係者はなかなか見つからない場合が多いでしょう。

そんなとき、職場に労働組合があったらどうでしょうか。その労働者が、本当に会社の主張するように業務怠慢だったのではなく、きちんと仕事に取り組んでいたならば、労働組合の組合員である同僚労働者が、そのように証言してくれる可能性が高いでしょう。

特に、労働組合の力がものを言うのは、次のような場合です。

就労条件の引き下げに対抗する

会社が、就業規則を変更することによって、給与体系を変更し、実質的に給与を引き下げようとすることがあります。
就業規則を変更するには、その前提として、会社は、労働者の過半数で組織する労働組合か、それがない場合には労働者の過半数を代表する者の意見を聞かなければなりません(労働基準法第89条、第90条1項)。

会社に労働組合がない場合には、会社は、会社にとって都合のよい従業員を労働者の代表者に選び(労働者全員からそのことに同意するサインを集め)、その従業員に労働者の代表者として意見を述べたことを認める書面にサインをさせることによって、労働者の過半数を代表する者の意見を聞いたことにしてしまう危険が大きいでしょう。

これに対して、職場に労働組合があれば、労働者は、労働組合の意見を述べる機会を通じて、就業規則の変更と給与の引き下げに抵抗する機会が与えられることになります。
労働組合が就業規則の変更に反対の意見を述べ、給与の引き下げについて団体交渉を申し入れている状況の下では、会社も容易に就業規則を変更することはできないでしょう。

また、仮に就業規則が変更され、給与が引き下げられてしまった場合には、給与の引き下げを無効だと主張し、引き下げられた分の給与を請求する裁判を起こすことが考えられますが、引き下げ幅が小さく、請求額が少額の場合には、弁護士はなかなか見つからないでしょうし、見つかったとしても費用倒れになってしまう可能性が高いです。しかし、職場に労働組合があれば、労働組合を通じて組合員全員の裁判を依頼することができるため、請求額が高額になり弁護士も裁判を引き受けやすいし、労働者一人当たりの弁護士費用も低く抑えることができるはずです。

職場環境の改善

会社は、労働基準法等に定められている労働条件の最低基準を守り、労働者の安全や健康に配慮する義務を負っています。しかし、会社がその義務を果たしているかどうかを監視する目や、会社がその義務を怠っている場合に抵抗する力がなければ、会社はその義務を果たそうとはしないでしょう。

また、労働者が安心して就労するためには、会社が労働条件の最低基準を守り、労働者の安全や健康に配慮するだけでは必ずしも十分ではなく、より良い職場環境の実現に努めることが欠かせません。たとえば、長年にわたり勤続している労働者に長期間のリフレッシュ休暇を与えたり、産休中の労働者に仕事と子育ての両立についての相談窓口を設けたりといったことです。しかし、そうした職場環境の改善は、必ずしも法律で義務づけられているわけではなく、法律の力だけで職場環境を改善することはできません。

職場に労働組合があれば、労働組合が、会社が労働条件の最低基準を守っているか、労働者の安全や健康に配慮しているか監視し、会社がそうした義務を果たしていなければ、会社に対して団体交渉を申し入れることが考えられます。
また、労働組合には、職場環境についてや組合員から様々な要望が寄せられるはずです。そして、労働組合の力の源泉は、法律上の根拠ではなく、労働者の団結にあるのですから、たとえ法律で義務づけられていない事項であっても、労働組合なら、職場環境の改善のために、会社に対して要求していくことができるはずです。

職場環境の改善は、労働組合が最もその力を発揮できる場面だということができるでしょう。

少額の残業代の請求

従業員が100人の会社で、全従業員が毎週1時間、毎月5時間程度のサービス残業に従事させられていて、そのうちの一人が、会社に未払いの残業代を請求したいと思ったとしましょう。
この従業員の1時間当たりの給与の額が1200円だとすると、この従業員が請求できる過去2年分の未払い残業代の総額は、
1200円×1.25×5時間×24か月=18万円
となります。
しかし、18万円という少額の残業代請求を引き受けてくれる弁護士はなかなか見つからないでしょうし、見つかったとしても費用倒れになってしまう可能性が高いです。そのうえ、在職のまま一人で会社に残業代請求を行えば、会社からにらまれてしまう可能性もあります。

そのような場合に、労働組合があればどうでしょうか。労働組合が、団体交渉で、全従業員の未払い残業代の支払いとサービス残業の廃止を会社に要求したとしたら、会社は、その要求をむやみに拒否することはできないはずです。そのようなことをすれば、労働者からの信頼を失って、会社の運営に支障をきたす可能性があるからです。

また、労働組合が、全労働者を代表して会社に要求をおこなえば、特定の労働者だけが会社からにらまれる心配もありません。
さらに、どうしても会社が未払い残業代を支払おうとしないなら、労働組合を通じて弁護士に残業代請求を依頼することが考えられます。労働者一人当たりの請求額が18万円だとしても、100人の請求となれば請求総額は1800万円になります。これなら弁護士も残業代請求を引き受けやすいし、労働者一人当たりの弁護士費用も低く抑えることができるはずです。